羽虫のように

有朋さやか

第1話

ありのまま受けとめてとは言えなくて親の財布を盗んだ あの日


血を吸いて膨れあがれる蚤を見る小言の多き母の背中に


じゅうぶんに使えるけれど棄てられる使えるだけの合板の椅子


なげやりな受け答えして歯に触れる糸こんにゃくの濁った熱さ


目のあらきふるいにかけて残るのは角の尖れる不ぞろいな石


膿疱につい手がふれる痛痒さ手だしをせずにいられぬ母は


ひじを曲げ辛抱強く消費するアルミニウムの一円硬貨


出来合いのエビチリを買うひとりぶん六尾の海老のいのちのすがた


染めにくく色褪せやすき麻糸のその質感はわたしそのもの


言われたらいわれただけは言いかえす眼に突き刺さる羽虫のように

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羽虫のように 有朋さやか @sakanoai

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