便女VS便鬼

タカハシU太

便女VS便鬼

 お尻が便座にすっぽりはまって、抜けなくなった。

 終業後の会社の女子トイレ。警備員は常駐していないので、建物にはもう誰もいない。

 スマホで外部に連絡を取りたくても、バッグはドアハンガーに掛かっていて、手が届かず。

 どうあがいても、ビクともしなかった。むしろ重みで、腰が落ちるほどだった。普段からダイエットをしていればと、アタシは悔やんだ。

 こんな苦しい体勢で、朝まで待たなければならないのか。見た目は、かなり笑えると思うが。できれば、記念に自撮りしておきたかった。

 明日、発見され、救出されるとなったら、瞬く間に社内に広まるだろう。バズったりして。

 嫁入り前の身だけれど、恥をさらす覚悟はできた。用を足したい時にトイレであることは、不幸中の幸いだったと思うことにする。

 ちょっと、ひと眠りしようか。


 その時、水が勝手に流れ始めた。

 さらにアタシの腰が落ちた。体重のせいではない。下から引っ張られているような感覚がある。

 誰?

 いや、何?

 どんどん引きずり込まれていく。このままだと、体がくの字に折れ曲がってしまう。

 臀部が濡れ、冷たさが走る。アタシは足をバタつかせながら、必死に踏ん張った。

 水の流れは止まらない。勢いが増し、まるで生きているかのようだ。

 もしかして、本当に意思が宿ったのか。

 排泄物を喰らう毎日に辟易して。

 今まで、アタシたちはトイレの気持ちを考えたことさえなかった。

 これは人類への宣戦布告かもしれない。


 瞬間、ケダモノの咆哮が地の底から響いた。

 同時に、アタシは奔流とともに吸い込まれて消えた。


               (了)

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