警告係は語りなく。

❄️風宮 翠霞❄️

第1話 怪談会と廃墟の怪

「なぁなぁ、叶維といは何か怖い話は持ってないのか?」


 夏休み明けすぐの夕方、空き教室に暇な男子高校生が四人も集まってしまえば……当然のように怪談会が始まる。

 これは、男子高校生検定四級《夏編》にも出てくる一般常識だ。


 だがそれはそうとして、すごく面倒なフリをしてきやがったな……と思いながら、俺––––晴野はれの叶維は「んー? あー、怪談なー……」と考え込むそぶりをした。


 俺は霊だとかなんだとかの類を信じていないけど、十五年間も生きていれば一応、怖い話の一つや二つは持っている。

 恋バナと怪談とカロリーバーの備えは、できる男子高校生には必須なのだ。

 まぁ、それを話したいかといえば完全に否なのだけど––––。


「おい〜、あるのか? あるのなら話せよ〜!」


「チッ……ある、あるよ。この前、変なメールが来たって話したやろ?」


 こういう時のノリを断ると、後々に響くと身をもって知っているから……俺は三人に示すようにスマホの画面を出しながら、そう話し出した。




 ━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━




 ほら、俺がこの学校に通うのに一人暮らししてて、家賃を払う金を稼ぐために心霊系チューバーの【カイ】として活動してるのは知ってるな?


 そうそう、お前らが俺に始めさせた、毒舌でまぁまぁバズった奴。

 ……で、二週間前やな。こんなメールが来てん。


『突然失礼します。

 10日前、私の娘が仕事帰りに行方不明になりました。

 調査会社に依頼して調べたところ、行方不明になる直前にあなた様がマイチューブに上げているF廃墟の動画を見ていたようです。何かご存知ありませんでしょうか?

 娘がいなくなった帰路にも廃墟があるようなのです。

 関係など、お心当たりはありませんか? カイ様、あなた様が頼りなのです。

 ご存じのことがあればお聞かせ願えませんでしょうか』


 まぁ俺はそれ見て……。


「え、だる。知らんやん」


 ––––って言ったんやけど。


 最近は心霊関係のよくわからないメッセージが大量に送られてくるのにも慣れてきてたけど……正直そのメッセージは、今までにきた謎メッセージの中でも五指に入るレベルで意味わからんかったし。


 だってさぁ、最後に俺の動画を見てたって言われても……知らなすぎやん?

 行方不明の原因が俺の動画とかありえへんし、迷惑でしかないもん……。


 お前らは知ってるやろうけど、俺の信条は「霊なんていない」やし。


 だから俺は、行方不明になったその娘さんも自分の意思で消えたんか、もしそうでないなら……不幸なことに、事件か事故に巻き込まれたんだろうから警察案件やなって思って、そのままメッセージ打とうとしたんよ。


 でも……まぁさぁ、あれよな、なんとなく。

 なんとなくこの、『娘がいなくなった帰路にも廃墟があるようなのです』っていう文面が気になったから、見に行こうと思って。


 あ、その結果俺が送ったメッセージがこれ。

 まぁ大雑把に要約すると、『話を聞きたい』って感じになる。


 ––––とまぁ……そんなこんなで俺は、わざわざ家から電車で三時間かかる上に更に30分歩かないといけない場所にある廃墟に行ったわけ。


 うん。週休一日制の俺らの唯一の休みである日曜に、普段よりも早い時間に起きて行ったわ。あ、ちなみに聞いて驚け? 朝六時に起きたからな。


 で、まぁアホみたいにあっっっっっつい日差しの中で、黒髪黒目黒い学ランに黒いリュックサックの真っ黒い格好で廃墟周りを四、五時間探索してきたんよ。


 結論から言うと、なんもなかった。無駄足やな。

 あー、話の中で格好が学ランなのは気にせんといてくれ。


 え、メールの相手とは会わんかったんかって?

 メール相手は行方不明者のお母様らしいんやけど、なんか、約束ドタキャンした上で廃墟への地図だけを送りつけてきたんよ。


 カスよな〜。

 だから大人は信用できひんねん。


 ……あ、ごめん。話の続きな。


 まぁそんなんやから、俺は帰ろうとしたんよ。だって暑いの嫌いやし。


 ––––……いや、そんな顔すんなって!


 そりゃあ、一応なんかあった時に入れるように、廃墟の持ち主に立ち入りの許可はもらってたけど? でも、俺は別に廃墟が好きなわけじゃないんやで?


 俺が好きなんはあくまで、幽霊はいるとか言ってる大人達を冷やかすために行く心霊スポット巡りや。あ? 性格悪い? アホ言うな、いい性格してるだけや。


 というか、廃墟ってヤバい人達がたむろって犯罪の温床になってる時があるから、ほんまに気ぃつけなあかんねんって!


 ごめんごめん、また話逸れたわ。

 でまぁ、ヤバいのはこっからやねんけど……。


 余談やけど、俺の勘って結構当たんねん。

 だから嫌な感じがすると思うところには、極力近づかんようにしてる。

 今までやってきた心霊スポット巡りだって、嫌な感じがしないところにしか行ってない。


 ––––で、なんかその廃墟からはめっちゃ嫌でヤバい感じがしたから、ほんまに行くのはやめとこうと思って、俺はもう帰ろうと思ってん。


 ……でも、足が動かんの。

 というか俺……知らん間に、いつも廃墟巡りで使ってる白手袋を着けて、ジリジリと廃墟の方に足を進めてたんよ。


『娘がいなくなった帰路にも廃墟があるようなのです』


 ––––っていう一文が、ほんまに頭を離れんくって、気持ちが悪なるほど奇妙に、なんでか引っかかってさぁ。

 自分でも意味がわからんし理解できんと思いながらも、廃墟に向かってんの。


 そして、その次の瞬間…………。




「君、随分なものに憑かれてるな。体質ゆえか……既に、相当引っ張られてしまっているように見える。ああ、死にたくないなら、それ以上進むのはやめておきなさい。君が苦しい思いをして死ぬことを喜ぶマゾヒストでないなら、そこに入るのはお勧めしない」


 知らん男の人に真後ろから急に、そうやって声をかけられたわ。




 ━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━




「「「はぁぁぁぁあああ!?」」」


「……うるっさ」


 途中で話の腰を折られるのにも耐えて、俺が頑張って語ってやったのに……唾をゴクリと飲み込んでいた三人は、オチを話してスマホをいじり出した俺の耳元で、何が気に入らないのか大声で叫びやがった。


 最悪だよ。

 鼓膜が破れたらどうしてくれるんだろう。


「何が怖いんだよ、何が怖いんだよっ!? オチが最悪だよ!」


「それはアレだろ、あの、廃墟に入ってしまうところだろっ!?」


「それのどこが怖い話なんだよお前さぁっ!」


 俺が全力で顔を歪めているのも気にせずにギュウギュウと詰め寄って叫ぶ三人に、俺はスッと手を顔の前に出して合図して……三人を静かにさせてから、口を開いた。


「気配がものすごい薄い見知らぬ美人な成人男性に、スピリチュアルなことで話しかけられたんやぞ? これを恐怖と言わずになんて言うん? 実在してない幽霊なんかよりも、よっぽど怖いやろ」


 俺が三人に向かって、「お前らは何アホなことで騒いでんだ?」と言うように首を傾げて見せたら……。


 正しいことしか言ってないはずなのに、三人から口を揃えて「「「このコミュ弱なリアリストめ」」」と謂れのない罵りを受けた。なんで?

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