2025年 9月1日

 夜の静寂は、いつの間にか目を覚ました蝉達に食い破られ、夏の喧騒が姿を取り戻している。

 

 私は、何事もなく9月1日を迎え、自宅に帰って来た。

 夏の音は、顔が歪むほどうるさい。けれど、早朝の空気は、どこか秋を孕んでいる。

 

「もう少しで夏が終わるね。お姉ちゃん」


 お姉ちゃんにそう告げた。

 けれど、返事は帰ってこない。

 母親似の何年も見続けていた表情で、小さく微笑んでいるだけだ。

 私が声をかけているのは、お姉ちゃんの遺影なのだから。


 縁側から吹き抜ける風が、一番心地よい場所にお姉ちゃんの遺影がある。

 私は、畳の敷かれたその部屋で、体育座りをしながらお姉ちゃんに話しかけている。


「お姉ちゃんは、ずっとそこにいるの?」


 9月1日を迎えた時、赤い皮膚の夜鷹は「ごめんね」という言葉だけを残して、消えてしまった。

 きっと、お姉ちゃんは3年前から、まだ学校にいる。


「1人じゃ寂しいよね」


 私は、縁側に視線を向けた。

 太陽に熱されていない爽やかな空気のおかげか、ずっと先の景色まで見渡せる。

 涼しい風が吹きつけて、私の髪を靡かせた。

 お姉ちゃんに頭を撫でられたような懐かしさが現れて、消える。

 私は、遺影に向き直った。


「でも、もう寂しくないよ。私、あいつらの存在を見てやったんだ。これから、大勢の人が、少しずつ死んでいくよ」


 また縁側から風が吹き込む。

 私の背後で、物音がした。風で何かが倒れたのだろう。


「みんな死んでいく。長い時間を掛けて、けれども確実に、全員が死ぬ」


 9月1日を迎えても、すぐに秋は訪れない。

 夏の熱気が、ゆっくりと冷やされ、やがて秋になる。

 私は、秋が嫌いだ――夕暮れの朱色の中で、肌寒いくらいの風に吹かれると、何故か寂しくなってしまうから。


   *


 2025年の8月31日の自殺者数は、不自然な増加をしている。

 それと同じくらい、不自然に高い出生率のある地域があるらしい。

 喜ばしいことだ。だが――


 産まれてきた子供が奇形なのは、誰も語らない。

 まるで、奇形である事を気づいてはいけないみたいに――

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8月31日は選ばれた1人だけが登校する まだ学校だよ @school_stay

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