[カクヨムコン11_短編]まるでロードショーみたいに ― 2ビートのLoveSong ―
三毛猫丸たま
まるでロードショーみたいに ― 2ビートのLoveSong ―
俺、
――いや、幼稚園からと書くと、あたかもそこが始まりみたいに聞こえるけれど。
本当のところ、始まりなんて誰にもわからない。
気づけば一緒にいて、振り返ればそこにいて、まるで生まれる前から馴染んでいたような錯覚さえある。
出会ったころから、エリは俺を「ハル」と呼び、俺は絵里を「エリ」と呼んでいる。
呼び方に始まりも終わりもなく、ただずっと呼んでいる。
それは幼稚園から、いや、もしかすると前世から続いている呼び声なのかもしれない。
呼び方はずっと変わらない。変えようとも思わなかった。変えられるはずもなかった。
――なんて、いちいち言葉にする必要のない事実を、わざわざ今さら宣言してみる。
事実は事実でしかないのに、わざわざ言葉にしてしまうと、どうしてこんなにも仰々しいのだろう。
母親同士が同級生で、家族ぐるみで、ほとんど兄妹。
おまけに誕生日まで一か月違い。
……正直、これで距離感を間違えろというほうが無理な話だ。
――こんな言い訳を、俺はいまだに心のどこかで反芻している。。
中学までは、背の高いエリに「チビハル」ってからかわれていた。
からかわれることが日常で、あだ名で、肩書きで、もはや俺の戸籍謄本にそう書いてあっても驚かないくらいだった。
「チビハル、ちゃんと前見て歩かないとまた転ぶよ」
そんなふうにからかわれる、俺は顔を真っ赤にして「言うなよ」と小声で返すしかなかった。
恥ずかしかった。屈辱だった。情けなかった。
――はずなのに。
その声色や笑顔が、なぜだか嬉しかった。
からかわれるたびに、心臓が跳ねて、照れるたびに、もっと名前を呼ばれたくなってしまった。
でも高校に入って、俺は背が伸びた。
肩幅も広くなった。
鏡に映るたび、そこにいるのは“昔の俺”ではなく、“昔の俺から遠ざかっていく俺”だった。
顔つきも変わった。きっと変わった。おそらく変わった。
少なくとも、子どもっぽさが抜けていった気はした。
……それでも。
エリのさらさらの髪や、柔らかな笑顔や、あの目の輝きのほうが、どうしたって俺には眩しくて。
エリの髪は風に溶け、笑顔は
結局のところ、俺は何も変わっちゃいなかった。
昔の俺から遠ざかったはずなのに、昔の俺に追いつかれている。
いや、もしかすると昔の俺のほうが、今の俺よりも先を歩いているのかもしれない。
―――――――――
そして俺はいま、あの日から時間を止めたまま、クリスマスの夜を歩いている。
―――――――――
――クリスマスの夜。
俺は人と喧騒であふれた街を歩きながら、首に巻いたマフラーに指先を添える。
このマフラーは、5年前、高校最後のクリスマスに絵里からもらったものだ。
既製品。
普通の既製品。
市販品。
売り物。
――言い換えをいくら重ねても、結局は「手作りじゃない」一言に尽きる。
俺は本当は「手編み」が欲しかった。
欲しかった、と過去形で言っているけど、現在形でも欲しい。
今だって欲しい。
これから先も欲しい。
つまり、俺はずっと欲しがっている。
欲しがり続けている。
――だが、そんなことは当然言えなかったし、言わなかったし、言うはずもなかった。
なにせ俺は、欲しいものほど口にできない種類の人間だからだ。
「ほら、おそろいだよ」
そう言って、彼女が笑いながら俺の首に巻いてくれた。
その一瞬に宿った体温だけは、どんな理屈を並べても消しようがない。
何年経っても冷めることなく、今なお俺の喉を締めつけてくる。
あの時も街にはイルミネーションが散りばめられ、耳障りなほど明るいジングルが流れていた。
それを耳障りと感じる俺のほうが、場違いだったのかもしれない。
あるいは、俺とエリが隣を歩いていること自体が、もう奇跡だったのかもしれない。
肩が触れるたびに、心臓が鳴った。
いや、心臓はもともと鳴っているものだ。
でもそれをわざわざ意識させられるのは、隣にエリがいたからだ。
つまり、俺の心臓はエリ専用の目覚まし時計か何かなのか。
――そんなわけがあるか。
「ハルってさ、大人っぽくなったよね」
エリが不意にそう言った。
からかいとも真面目ともつかない調子で。
「……そうか?」と返した俺の声は、雑踏にかき消えそうなほど小さかった。
本当は「エリの方が、ずっと綺麗になったよ」と言いたかった。
けれど、それを言葉にしないで済ませるのが俺の悪い癖だ。
――いや、悪い癖どころか、それはもう病気の領域だ。
あの日から、俺の時間は止まっている。
止まったまま、進まない。
進まないのに、街だけが光に包まれていく。
マフラーを強く握りしめながら、俺はそう思った。
その思いはやがて、もっと遠い記憶を呼び覚ます。
―――――――――
記憶はさらに遡る。
高二の秋、放課後の坂道。
いつもの帰り道。
幼稚園の3年間。小学校の6年間。中学校の3年間。
――合計12年間。
おおざっぱに数えて約4,380日。
登校日で言えば、おそらく2,000日ちょっと。登下校にすると4,000回。
距離は――ちょっと計算しきれない……
ただ、そのすべての登下校が「いつもの通い道」だった。
自転車を押しながら、並んで歩くだけ。
ただそれだけなのに、やけに特別で、やけに居心地が悪くて、やけに嬉しかった。
要するに、俺はただの凡人で。
その凡人の隣に、いつもエリがいた。
茜色に染まった空が、帰り道をやわらかく包む。
通りを行き交う人は少なく、ほとんど二人きり。
――二人きり、という状況は、なぜこんなに心臓が騒がしくするのか。
物理的な距離は近いのに、心理的距離は近づけない。
近いからこそ、近づけない。
言っていて矛盾してる気がするけど、要するにそういうことだ。
……なのに、あの日だけは例外だった。
たった一日で、永遠に例外になった。
いつものように他愛のない会話をしながら歩く、坂道の途中。
不意に。
絵里が振り向いた。笑いながら。
「ねえ、ハル。なんだか『耳をすませば』のラストっぽくない?」
……いや、いきなり何を言い出すんだ。
そう思った瞬間、俺の思考よりも彼女の行動が早かった。
ガシャンっ!
エリの自転車が倒れた。
顔が近づく。
息が触れる。
――そして、唇が触れた。
ほんの一瞬。
ほんの一秒。
けれど俺の世界にとっては、やけに長くて、やけに鮮烈で、やけに消えない瞬間だった。
ガシャンっ!
俺の自転車のハンドルを握る手から、指から、一気に力が抜けた。
「ほら、映画みたいでしょ?」
呆然とする俺を茶化すように笑ったエリ。
『耳をすませば』のラストは、こんな感じじゃなかったはずだ。
…だけど、そのときのエリは理不尽で、不条理で、不可解で、理解不能で、でも抗いようのないくらいに、ただただきれいで、美しくて、
『ローマの休日』のオードリー・ヘプバーンみたいに見えたんだ。
――いや、冷静に考えれば、そんなわけがない。
でもその瞬間の俺の目には、たしかにそう映ってしまったんだ。
頬が焼ける。耳まで熱い。
俺は返事をするどころか、顔を真っ赤にしたまま俯き……「あ」と言うのか、「う」と言うのか、「あ」と「う」の中間なのか、結局どれでもなくて、どれでもあるような音しか出せなかった。
エリは、そんな俺を振り返りもせず、軽やかに前へ進む。
夕焼けに染まるその背中が、映画のスクリーンみたいに輝いて見えた。
その後のことは、記憶から完全に消失してしまっている。
だけど、夕焼けの赤ごと、あの瞬間のことだけは俺の記憶に鮮明に、永遠に刻まれてしまった。
甘くて、苦くて、眩しい――記憶であり、記録であり、そしてかけがえのない思い出。
―――――――――
ところで……
俺には小学校のころからの癖がある。
癖というか、習慣というか、もはや宿痾(しゅくあ;治らない病気。持病。)みたいなものだ。
授業中、黒板の文字を写すフリをしながら、ノートの端に描いてしまう。
描いてしまった。
描かずにはいられなかった。
背中合わせで座る男女の俯瞰図。
正面じゃない。
横並びでもない。
なぜか背中合わせ。
理由なんて知らない。
知らなかった。
知りようもなかった。
けれど描いていると、不思議と落ち着く。
安心する。
安堵する。
安息する。
背中を預けられるって、つまり信頼だろう――などと、あとからいくらでも屁理屈をつけられる。
でも当時の俺は、そんな大層な意味なんて考えてなかった。
考える前に手が勝手に動いてしまった。
つまりこれは意思じゃない。
反射だ。
習性だ。
俺そのものだ。
そして、その習性は高校に入っても、まったく改善される気配がなかった。
いや、改善されるどころか、むしろ悪化していた。
だって右手が勝手に鉛筆を握って動いてしまうんだから。
止めようと思えば思うほど、余計に動いてしまう。
これは病気か?
呪いか?
いや、単なる落書き癖だ。
そしてある日のことだ。
エリが俺のノートを覗き込んだ。
覗き込んで、見て、そして笑った。
「また描いてるの? いつまでたっても子どもだね」
――子ども。
その一言が俺の胸に突き刺さる。
突き刺さって、抜けなくて、疼き続ける。
だから俺は慌ててノートを閉じた。
閉じたけれど、閉じたページの裏にも同じ絵が並んでいる。
隠せば隠すほど、暴かれる。
隠すほどに、バレる。
ページをめくればめくるほど、俺の子どもっぽさは増殖していく。
それはもはや証拠隠滅ではなく、証拠拡散。
……あの構図は、俺にとってただの落書きじゃなかった。
ただの絵じゃないけど、絵でしかない。
本当は、二人が「いつまでも一緒にいたい」と願った、幼い幻想の象徴だった。
幻想の象徴で、象徴の幻想だ。
けれど――。
落書きは落書きのままで。
ノートから飛び出して、現実になることは、結局一度もなかった。
一度もなかったし、これからもないのだろう。
幻想の象徴で、象徴の幻想のまま――
―――――――――
卒業式の日の夕暮れ。
やっぱり坂道。
例によって坂道。
最後まで坂道。
制服姿のまま、沈む夕日が俺たちを長く引き伸ばしていた。
「なあ、エリ」
「なに、ハル」
「エリの将来の夢って、弁護士だったよな?」
わかっている。
知っている。
それでも聞かずにはいられなかった。
確認。
いや、確認に見せかけた独り言。
独り言に見せかけた問いかけ。
問いかけに見せかけた――ただの再確認。
要するに、わかっていることを、もう一度わかりたかっただけだ。
知っていることを、もう一度聞きたかっただけだ。
頭では理解しているのに、胸が納得していないから。
胸が納得していないから、口が勝手に動いてしまった。
エリは少し考えて、少し笑って、少しだけ遠くを見ながら言った。
「弁護士も夢だけど……ずっと前から、すごく小さいけどすごく大切な夢があるんだよね」
唐突に差し込まれる「ずっと前から」という言葉。
唐突に差し込まれる「小さいけど大切」という矛盾めいた強調。
その響きに、俺は妙にざわつかされる。
「ずっと前から? なんだよ、それ」
問い返す声は軽くても、心臓は重く鳴っていた。
期待か、不安か、それともその両方か。
けれど、エリは首を横に振った。
「……恥ずかしいから、出発の日に教える」
恥ずかしいから言わないのか。
出発の日だから言うのか。
言わないための言い訳なのか、言うための言い訳なのか。
その曖昧さごと、俺は飲み込むしかなかった。
曖昧だからこそ、答えを聞きたくなるし、答えを聞けないままでいたくもなる。
そんな矛盾を、エリはさらりと残して笑っていた。
曖昧だからこそ気になって、曖昧だからこそ怖くて、曖昧だからこそ――愛おしい。
『出発の日』
その言葉が、胸の奥で小さな爆弾みたいにカチリと音を立てた。
どれだけ抗っても、分岐する未来は交わらない。
それでも、その時のエリは、まるで分岐なんて存在しないかのように笑っていた。
その約束を残して、俺たちは別れた。
いや、正確には――別れることが決まっていた。
エリは春から法学部に進む。
弁護士になる夢を、ちゃんと追いかける。
夢を「夢」で終わらせないために、遠くの大学へ行く。
俺は地元に残る。
実家の不動産屋を手伝いながら、いずれは継ぐ。
俺の未来は、まるで既定路線のバスみたいに、最初から決まった停留所に向かっている。
坂道も、駅も、景色も残るのに、エリだけはいなくなる。
「分岐」という言葉はあまりに優しい。
「分岐」という言葉はあまりに残酷だ。
実際は――断絶だ。
最初から交わらない線路に、わざわざ夢という幻想で橋をかけようとしていた。
――その事実が一番痛い。
卒業式は、ただそれを宣言し、認識させる儀式にすぎなかった。
そして、儀式が終わればすぐに現実は押し寄せる。
―――――――――
――出発の日がやってきた。
駅のホーム。
スーツケースを持ったエリ。
非日常的で現実的な、旅立ちの姿。
「これ……後で読んでね」
そう言って小さな封筒を渡す彼女の手が、やけに軽くて、やけに遠くて、やけに離れていた。
受け取った勢いのまま、俺はエリの体を抱きしめた。
衝動か、必然か、あるいはそのどちらでもない曖昧な行為。
拒まれるかもしれない、突き放されるかもしれない、そんな予感が一瞬よぎったのに――結果は逆だった。
エリは抵抗しない。
拒絶しない。
拒否しない。
ただ、受け入れた。
それどころか、彼女の両手が俺の背にまわって、やわらかく触れ、やわらかく返してきた。
列車が到着するベルが二人を包む。
「――じゃあ、行くね……」
声が震えていたのかどうか。
震えていたのかもしれないし、震えていなかったのかもしれないし、震えを俺が勝手に聞き取ってしまっただけかもしれない。
結局のところ、もう思い出せない。
思い出せないからこそ、余計に思い出したくなる。
俺は二度、頷いた。
一度では足りなかった。三度では多すぎた。
だから二度。
だからちょうど二度。
だから二度目で、ようやく両手を離した。
――本当は、このまま抱きしめていたかった。
いたかったし、離したくなかったし、抱きしめ続けたかった。
でも涙が視界をにじませ、言葉を塞ぎ、声を奪う。
泣きたいのに泣けないのか、泣きたくないのに泣いてしまうのか。
その違いなんて、どうだっていいはずなのに、どうでもよくはなれなかった。
歩きだす彼女の背中に、声の代わりに、心の中でそっと口づける。
唇は動かない。
動かせない。
だから、届かない。
だから、届かないまま。
だから、さよならのキスは幻のまま。
幻のまま、霧散して、消えていった。
発車のベル。
閉まるドア。
窓越しの笑顔。
遠ざかる列車。
俺の思いは届いたのか、届かなかったのか。
いや、本音の部分は届かなかった可能性のほうが高い。
それでも最後にぬくもりだけを残して、加藤絵里は旅立っていった。
大人で、子どもで、どちらでもなくて――
――俺にとってただ一人、いつだって眩しい加藤絵里。
――――― 静寂 ―――――
残されたのは、俺と封筒だけ。
帰り道。
人影の少ない通りで、俺は立ち止まって封を切る。
そこにあったのは、たった一文。
「自転車に乗って あてもなく二人きりで あなたの後で ゆられてたい」
……短い。
短いのに、永遠。
シンプルなのに、すべて。
それは、俺が幼い頃からノートに描き続けた“落書きの未来”そのものだった。
(……エリの夢も、同じだったんだ)
エリも、俺と同じ夢を抱いていた。
同じ未来を見ていた。
なのに――未来は別々になった。
重なった夢と、離れた現実。
夢が重なるのに、未来は離れていく。
願いが一致するのに、未来が分岐してしまう。
落書きの未来は、二人の未来だったはずなのに。
なのに今は、もう叶わない未来になってしまった。
それを突きつけられることほど、痛いことはない。
便箋を指に食い込ませるように握りしめてしまう。
――立ち尽くしたまま、俺はその便箋をしまえなかった。
夢は夢のままで。
未来は未来のままで。
夢と未来は、互いに手を振り合うことなく、すれ違ったまま二度と戻らない
そう思っていた――けれど。
―――――――――
気づけば、立ち止まっていた。
イルミネーションの光と、人混みのざわめきの真ん中で。
追憶に沈んでいた時間が、ようやく終わりを告げる。
あの頃の坂道。
あの頃の落書き。
あの頃の便箋。
ぜんぶ、思い出の中にしまわれて――そして今は、この街角にいる。
クリスマスの雑踏。
サンタ帽をかぶった子どもが駆け抜け、買い物袋を抱えた大人が行き交い、音楽と笑い声が街を満たす。
俺はただその流れに身を預け、足を進めていた。
そのとき、ふと。
懐かしい色が、視界に差し込んできた。
マフラー。
あの色。
あの冬の日の色。
(……あのマフラー?)
雑踏の向こうのマフラーと、俺の手にあるマフラーが、一瞬だけ重なった気がした
思わず目を凝らす。
雑踏の向こう。
足早に歩いている人影。
そこに――エリがいた。
息が止まった。
いや、止まったのか奪われたのか、その違いすらどうでもよかった。
「エリ……!」
声を掛けようとした瞬間、群衆の波が横から押し寄せてきた。
一歩、二歩。
気づけば、距離は勝手に開いていく。
声は喉まで出かかった。
いや、出たのかもしれない。
でも、雑踏に飲み込まれて、かき消された。
俺の声なんて、クリスマスの街にはノイズにもならない。
伸ばしかけた手。
結局、下ろすしかなかった手。
ただ目で追うしかなかった視線。
エリは――気づかぬまま。
人波に溶けて、消えていった。
残された俺は、首元のマフラーの端を握りしめる。
かつてエリからもらった、同じ色のマフラー。
俺とエリの唯一の共有物。唯一の、証拠。
「ほら、おそろいだよ」
あの時のエリの言葉が頭の中にこだまする。
こだまするのか。
反響するのか。
反芻するのか。
いやリフレインなのか。
いやいやエコーなのか。
いやいややっぱり残響なのか。
いやいやそれとも残像なのか。
どれも正解で、どれも不正解で、どれも近くて、どれも遠い。
言葉を積めば積むほど、真実から遠ざかっていくのに、俺は言葉を積まずにはいられない。
呼び方は何であれ、結局はただ一つ。
消えたはずなのに、戻ってくる。
去ったはずなのに、まだ残っている。
だから――やっぱり「こだま」なのだ。
ラストシーンの幕切れにふさわしい、あまりにも不完全で、あまりにも完全な「こだま」として。
俺は空を見上げて、苦笑するしかなかった。
夜空には満点の星々。
(――まるでロードショーみたいだ……)
ハッピーエンドでも、バッドエンドでもない。
ただの街角。
ただの現実。
ネオンはまだ瞬いている。
街はまだクリスマスを続けている。
首のマフラーが、かすかに温もりを返した。
「……自転車に乗って、あてもなく二人きりで――」
あの時の便箋の一文が胸に浮かぶ。
叶わなかった夢なのに、不思議と歩く背中をそっと押してくる。
たとえ未来は違っても、あの日の夢が消えることはない。
その小さな灯を抱えながら、俺は前を向いて歩いていく。
(おわり)
本作は
また、物語の一部には JITTERIN'JINN「自転車」(作詞:
Inspiration from JITTERIN’JINN “SINKY-YORK”
Lyrics © JITTERIN'JINN
[カクヨムコン11_短編]まるでロードショーみたいに ― 2ビートのLoveSong ― 三毛猫丸たま @298shizutama
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