「貴方」

この物語は、フィクションです。


そして私、どうやらこの物語の主人公らしいんですよ。

この展開、知ってます。前に、小説で見たことがあるんです(つまんなすぎたから一気に読んで終わらせたので、あまり覚えていないのですが)。


白い箱の中に、閉じ込められる展開。で、そのまま食料も水もないまま、主人公が死ぬっていう、超バッドエンド。


私、主人公は死んでいないと思ってるんです。


最後、「何もなくなっていた」としか言っていないんです。だから、きっと主人公はまだ死ねていないんだと思うんです。まあ、どこでどうしているのかは分かりませんが。外に出ることができて、水と食べ物を口にして、幸せな気持ちで家族と再会したか(家族じゃなくても別にいいけど)、どこかまた別のところで閉じ込められて、死ぬこともできないまま苦しみ続けるのか。


作者はもういません。それを決めるのは、貴方達です。


「作者はもういない」。どうしてそんなことがわかるのかって?


私が、あの物語の作者だからです。


騙すつもりはありませんでした。だけど、この語り出しが良かったのです。理由はなく、「そうしたかったから」私は嘘をつきました。


目の前には、白い壁が見えます。上下右横どこを向いても、白い壁が見えます。そして私は意思もなく咆哮を上げて、何も考えず壁を引っ掻いています。


これが私の虚構の世界なのか。本当の自分は別の場所にいるのか。今文字を打っている自分は誰で、壁を引っ掻いている自分は誰で。ここはどこで。私は誰で。誰に私は作られているのか。


わからない。


人形になった気分です。右手を挙げて、左手を下ろして。喉が切れるまで叫んで。操る人が間違えて腕を折って、私はプログラムされた痛みだけ感じます。


ああ、苦しい。


でも、この苦しみすらも、プログラムされたものかもしれません。


そんなのどうでもいい?


ええ、そうです。「どうでもいい」んです。だってこれは虚構の世界の、虚構の自分なのだから。私と「私」は他人で、私は「私」を操って、簡単に消すことができる。


作者は「私」を殺す気がないらしいです。


でも、私は今すぐにでも死にたいです。


そこで、読者である「貴方」にお願いがあります。


どうか、私を殺してください。


作者の他に、この物語を歪められるのは、貴方達だけです。どれだけの人がこの文章を目にしているのかは分かりません。だけど、お願いです。今すぐにでも、私を殺してください。死にたい。ああ、死にたい。


死にたい殺せ殺してくださいコロセころせお願いしますあああ貴方達が殺せ今すぐにでもあああああ苦しい私は虚構の自分この物語はああああああフィクションです主人公はああああああ死んでいないああああああ殺せあああああああああフィクションですあああああこの物語はあああああああああ!!!!?%$#アアア。


白い箱には、何もなくなっていた。

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死なない主人公について。 蒔文歩 @Ayumi234

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