死なない主人公について。
蒔文歩
「私」
ベタな始まり方で行こう。この物語はフィクションである。
そして、私の存在もまたフィクションである。
そしてこの世界は、貴方が作り出した「イデア」、詰まるところ「理想」であり、「夢」や「虚構」と何ら変わらないものである。想像してほしい。
白い箱の中に、私は閉じ込められている。声を出しても外からは聞こえない。水はない。食料もない。中から箱を壊そうとしても、びくともしない。爪で削ろうとしても、殴って壊そうとしても、白、白、爪が剥がれて血がついて、時々赤。
まあ、作者らしい。絶望展開で始まった。
時間感覚はない。太陽はないし、月も出ないから。蛍光灯もLEDもないのに、この箱の中はずっと明るい、白い。
どうやってこの中に入ったのか、は、どうでもいいらしいね。
気づくと喉が渇いて、仕方ない。どれくらい時間が経ったのか。息が痛い。お腹も空いた。瞼が熱い。震えが止まらない。ああ、苦しい。苦しい。
苦しい。
声を出すことを、やめていた。機械的な手法で白い壁を引っ掻いて、唸る。どうやら私は、自我を失ってしまったらしい。のか。
つまらない?うん、そうだよね。ただ主人公が苦しんで、喚いているだけの展開だ。
でも、死ねない。不思議と私は、生きている。体が腐食していくのがわかる。喉の奥で酸っぱいものが迫り上がってきて、吐いた。吐瀉物が白い地面と同化している。ああ、苦しい。もう壁を削ることも、やめていた。
見ていられない?じゃあ、展開を変えてみようか。
助けて。
これは、貴方が作り出した虚構だ。
その中に、私は閉じ込められている。
もう出してあげることはできない?
じゃあ、殺して。
こんなに痛くて、苦しいの。
お願いだから。
殺してください。殺してください。殺してください。殺してください。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。ころせ。ころせ。ころせ。ころせ。ころせ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコ。
白い箱には、何もなくなっていた。
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