友だちが住んでたマンション
尾八原ジュージ
友だちが住んでたマンション
冬だった。学校から帰って、それから友だちが住んでるマンションに遊びに行った。
一階のエントランスまで友だちがむかえにきてくれて、ふたりでエレベーターに乗った。ほかにはだれも乗っていなかった。
パネルの前あたりに立ってしゃべっていたら、急に電灯がくらくなった。そしたら友だちが「下見て」と言った。
「だまって、動かないで、自分の足だけ見てて。そのままぜったい顔上げないで」
なんで? と思ったけど、友だちの声がすごく真剣だったのでこわくなった。ぼくはだまって下を向いた。
自分のつま先を見てたら、急にそのななめ前あたりに、ぜんぜん知らない別の足があらわれた。
大きな足だった。どろだらけで、はだしだった。そいつは狭いエレベーターの中を、ぺたぺた歩き回り始めた。
歩き方がだんだん速くなる。顔のよこで風がふいた。
ぶつかるかも。どうしよう。
泣きそうになっていたら、ポーンと音がしてエレベーターが止まった。ドアが開く。
友だちがぼくの手を引っぱった。ぼくたちはいきおいよくエレベーターから飛び出して、ろうかの床にたおれ込んだ。
ふり返ると、エレベーターにはだれも乗っていなくて、中の電灯がゆっくり明るくなるところだった。それを見ているうちに、ドアが閉まった。
「あいつさ、こわいけど、一年に一回会うか、会わないかくらいだから」
友だちが、いいわけするみたいに言った。声がふるえていた。
「だからさ、また遊びに来いよな」
うん、とこたえたけど、それから一度も遊ばないうちに、友だちはだまって引っこしてしまった。
友だちが住んでたマンション 尾八原ジュージ @zi-yon
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