仕事はしない! 金をくれ!!

ジュン・ガリアーノ

仕事なんてしたくないっ!

「おはようございます!」


 朝、オフィスのドアを俺はバンッ! と、叩くように開けた。

 その音と声に皆の注目が一気に集まる。

 ここまでなら、ただ『朝からうるさいヤツ』と言われるぐらいで終わっただろう。


 しかし、俺に集まっている視線はそうではない。

 誰もが皆、


「あっ、ああああっ⋯⋯!」


 と、いうかすれた声を漏らしながら、目と口をカッぴらいている。

 全員、まるで宇宙人に会ったような顔だ。

 その理由を俺は分かっている。

 分かっているからこそニッと口角を上げ、そのままツカツカと課長の前まで進む。


「課長!」


 ドーンと胸を張ってる俺。

 対して課長はフルフルと震えながら、人差し指を向けてきてる。

 まるでアル中患者のような震えだ。


「キ、キミ⋯⋯なんなんだ、それは?!」


 が、それも仕方ないだろう。

 ”こんな姿”のサラリーマンなんて、見たことも想像もした事すらないだろうから。


「ハハッ、これですか。わたくしは───」

 

 俺は肩からかけているデカい”タスキ”に書いてある文字、いや、決意を告げる。



「仕事はしない! 金をくれ───っ!!!」



 未だかつて誰もした事のない宣言が、オフィスに響き渡った。

 同時に課長は、俺を未確認生物を見るような眼差しで見つめたまま声を絞り出す。


「しょ⋯⋯正気か、キミは?!」


「正気も何もありませんよ。俺は今、熱い想いに震えています! いや、本当に震えますよ。まさか今日に限って⋯⋯」


 チラッと見つめた先にいるのは、なんと社長。

 ビシッと短髪でガタイもいい。

 また、軽いブラックとはいえ、ここまで会社を率いてきた貫禄がある。

 そんな社長は呆れ謎めいた顔で俺に近付き、探るように睨んでいる。


「お前、何を言っている? 気でも、狂ったのか?」


 だが俺は怯まない。

 震えそうになる体に力をこめまくる。


「仕事はしない! 金をくれっ!!」


「ハンッ⋯⋯」


 壊れた機械を前にサジを投げたようなため息が、緊張したオフィスに水滴のように落ちた。

 しかし、一本の電話がそれをかき消す。


 プルルルルッ! ⋯⋯プルルルルッ! ⋯⋯プルルルルッ!


 表示されているのは、株式会社『RIFUJIN』

 無理難題ばかり吹っかけてくる会社。

 こっちが誠意を尽くしても、全く聞かず無茶を言ってくる。

 そのくせドケチだ。

 ただ、ウチの社長のなんたらで、とにかくめんどくさいが無碍には出来ねぇ厄介な会社。

 なので誰も出たがらない。


 プルルルルッ! ⋯⋯プルルルルッ! ⋯⋯プルルルルッ!


 けれど、電話は鳴り続けてる。

 早く出ろと言わんばかりだ。


───ふざけやがって! クソが!


 ”熱い想い”と共に、俺は受話器をガシッと握り掴み上げた。

 耳に当てた瞬間、


「おたくさぁ〜」


 と、ヌメッとした声が侵入してくる。

 冗談じゃない。なんてったって俺は───

 本気で怒鳴りつける。


「仕事はしない! 金をくれっ!!」


「は、はあっ? お、おたく何を⋯」


「仕事はしない! 金をくれっ!!」


「ちょ、ちょっと⋯」


「仕事はしない! 金をくれ───!!!」


 心からの叫びがクソ野郎の耳を貫き、オフィスに衝撃波のようにブワッと広がった。

 もう仕事なんてウンザリなんだよ。

 だからこそ、俺の叫びには神が宿ったのだろう。

 ヌメクソ野郎は言ってきたのさ。


「クソッ! ママにもこんなに怒鳴られたことないのに──」


 なんか訳分からんこと言ってっけど、とにかく仕事を創んじゃねぇよ。


「仕事はしない!! 金をくれ!!!」


「うううっ!! ママーーーッ!!」


 ヌメクソは泣きながら電話を切った。

 で、当然社長は大激怒。


「キサマッ!! なんてことをしでかしたんだああああっ!!!」


 怒鳴りながら俺の襟首を両手で掴み、思いっきり揺らしまくってる。

 だがその最中、経理課の女の子が血相を変えてオフィスに駆け込んできた。


「しゃ、社長っ!」


 彼女は信じられないという顔をしながら、大声で告げてくる。


「か、株式会社『RIFUJIN』から、入金が⋯⋯今までの分、全部、入金がありましたああああっ!」


「なにいっ?!! バ、バカなっ!! なぜ?」


「わ、わかりません! ただ⋯⋯」


「ただなんだ?!」


 思いっきり顔をしかめている社長に、彼女は一呼吸ついて眼差しを定めた。


「もう怒らないでと。ごめんなさいって⋯⋯」


 零したような言葉に広がる沈黙。

 あまりの事に、誰も声を発さない。


 けどそんな中、誰かが、そっと、拍手を始めた。


 パチパチ⋯⋯ 


 と、いう小さな拍手。

 それが、徐々に、でも急速に広がっていく。


「おおおおおっ! スゲェ!! スゲェよマジで!!」


「ホント、凄すぎる!!」


「こんなこと、あるの?!!」


 ピ───ッ! ピ───ッ!


 バチバチバチバチバチバチバチバチッ!!


 あっは────────♪



 オフィスはまるでお祭り状態だし、社長も流石にイミフな顔してる。

 まっ、ちょーどいいから、俺は襟首から社長の両手をバッと引きはがした。

 いつまても掴まれてるのはごめんだ。

 勘弁してくれ。


 で、襟をササッと直して、俺は社長を真っ直ぐに見つめた。

 


「仕事はしない! 金をくれっ!!」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 盆明けの憂鬱な気持ち、ちょっとは晴れたでしょうか😄

 需要あれば、またどっかの連休明けにでも、続きアップします。

 まあ、主人公が”仕事”をするかは分かりませんけど w

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