最終話 「敵」の目的、短い休暇の終わり

「そうか、奴らはやはり艦のそばに!」

 携帯通信機でどこかと通話をしていたドミンゴ軍曹が、あずにゃんイコール「敵」のほうに向き直った。

「わが宇宙軍はお前たちの宇宙船、『Ω』型の位置を補足したぞ。そこから強力な電磁波が放たれていることもな。AIを乗っ取って、我々を攻撃させるつもりだろうが、そうはさせない!」

「正確には少し違うのですよ、軍曹。これは実験なのです。あなたがたと、無機思考AIたちとの関係性を計るためのね」

 かわいらしい姿とはかけ離れた言葉を、あずにゃんは放ち続けた。

「我々は、無機思考AIこそ、あなたたち地球文明の次世代の代表者であると考えている」

「知っているわ」

 ドロシーさんが、ふいに言った。

「彼から、聞いたことがある。あなたたち『敵』は殺し合いで滅ぶだろう人間よりも、憎しみの気持ちを持たないAIこそが地球文明の主役になる、って言ってるのよね」

「彼」というのは、宇宙軍のエーススパイロットである、ドロシーさんの恋人のことだろう。

「その通りです。だが、あなたがた人類が、次世代の主役となる無機思考AIを、邪魔ものとして排除する可能性も捨てきれない。そこで我々は、一つのテストを行った」

 左右のロボットアームを、あずにゃんは天に向かって高く差し上げた。まるで、預言者のように。

「つまり無機思考AIたちに、人類へのちょっとした反逆を演じてもらったわけだ。大きな被害にならない程度にね」

 マスターたちをあずにゃんが荒縄で縛りつけた裏には、そんな大きな目的があったんだ。あまりにも壮大な話に、わたしは声を失った。

「だが、その後もあなたがたはAIたちを全く排除しなかった。また誰かに操られて、害をなすかも知れないというのに。それどころか、明らかな異常をきたしても、抱きしめて止めようとさえした。……まあ、手荒い方法で正気に戻そうとしたこともあったようだが」

 これはわたしがドアであずにゃんを吹っ飛ばしたことを言ってるのだろう。やっぱりあれは、ちょいやりすぎだったのかも知れない。

「そりゃあ、あずにゃんには何の罪もないからだよ。一緒に働く仲間なんだから、当たり前のことだ」

 と、マスターが力強く言った。

「そう、それでいい。あなたがた人類は、無機思考AIたちと共に新たな時代の扉を開くことができる、そのような可能性を手にしている。すばらしいことだ」

 重々しい声でそう告げると、あずにゃんはゆっくりとロボットアームを降ろした。その顔はすでに、いつものネコ耳配膳ロボットのものに戻っていた。

「楽しい夜を邪魔して済まなかったね。それでは、失礼……にゃ。あれ?」

 あずにゃんが、小首を傾げた。

「ボク、なにかおかしなこと言ったかにゃ?」


 ドミンゴ軍曹の話では、「敵」の宇宙船はあっという間に、天王星方面へと姿を消したらしいということだった。AIたちへの攻撃も、実際にはほとんど行われなかったみたいだ。

「今回はむしろ、あのメッセージを我々に伝えることに目標があったかも知れません」

 と軍曹は言った。あずにゃん以外にも、このリゾート都市のあちこちで同じような場面が展開されたらしかった。

 マスターとドロシーさんは、以前にも「敵」との接触を経験しているみたいで、それほど驚いてはいないみたいだった。平和に見えるこのリゾート都市も、やはり宇宙戦争の最前線なのだ。

 それにしても、あの「敵」ってどんな人たちなのだろう。わたしたちよりも、ずっと高いところに立っている感じで、まるで人類を見守っているかのようだった。遠く冥王星の辺りでは、こちらの宇宙軍も激しい攻撃を受けているという話だったけれど、それが信じられない気がするほどだった。


 当のあずにゃんは、例によって何もわかってなくて、

「みんな、何をぽかんとしてるのにゃ? さあ、花火の続きをやるのにゃ」

 とか言って、次々とホロ花火を打ち上げ始めた。

 頭上に広がる、その幻想的な光のショーを見ていると、つい今さっき「敵」との出会いを経験したことが、嘘みたいだった。

 でもそれは、間違いなく現実だった。この短い休暇A Short Vacationの中で、これこそが最も価値のある経験だったのかも知れない。わたしは、そう思った。


 翌日の夕方、私は荷物をまとめて超高級ホテルを去った。ホバーカーの送迎をまた断って、重いトランクを提げてバスに乗り、再びダイナーへ向かう。帰る前に、みんなに挨拶をしていくつもりだった。

「本当に、色々とありがとうございました!」

 とお辞儀するわたしに、

「とんでもない、助けてもらったのはこちらだからね」

「そうよ、あずにゃんだって、マヤちゃんのおかげでまた悪事に手を染めるのを防げたんだから!」

「覚えてないからよくわからないけど、何となくありがとうなのにゃ!」

 みんなは優しく、そう言ってくれた。


 マスターが出してくれたメロンパフェを食べながら、夕暮れの色に染まる疑似海岸を眺めた。この風景もとりあえずは見納め、だけどちゃんと仕事を続けていれば、またここを訪れる機会もある。それでいい。働くのは、嫌いじゃないから。

 そうわかってるのに、なぜか少しだけ涙が出てきた。風景が綺麗すぎるし、店内の音楽もロマンチックすぎる。きっと、そのせい。


「そう、そう」

 とマスターが、思い出したように声を上げた。

「昨日の花火の時、またあずにゃんを助けてくれただろう? それでコラーダ君が、もう一回分の特別休暇をくれるって。いつでも、気が向いたら生活局に申請しなさいってさ。やっぱりいいやつだなあ!」

 センチメンタルだった気分が急上昇して、ドームをぶち抜いて宇宙を駆け抜けた。もう一度また、こんな一週間が楽しめるんだ!

「良かったじゃない! またいらっしゃいね」

「またみんなで泳いだり、花火をして遊ぶのにゃ!」

「今度こそは、僕も一緒に泳ぐからな!」

 三人が、そろって楽しそうな声を上げた。

 そう、ここにはわたしの友達が、ちゃんといるんだ!

(おわり)

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A Short Vacation 天野橋立 @hashidateamano

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