#7 夜空を染めるホロ花火、再びの異変発生
「それでは、発射するのにゃ!」
あずにゃんがロボットアームで、砂の上に並べた花火の筒の先を、素早く連続で叩いた。ひゅーんという音と共に打ち出された色とりどりの光の粒が、「ぱあん」と頭上で広がって、キラキラと輝く。
「わあ!」
「綺麗!」
ドロシーさんとわたしが思わず声を上げて、マスターがうんうん、とうなずく。
これが通称「ホロ花火」で、空気の分子に反応してルミネセンス発光する無害な物質を使っているから、火薬を使うことが禁じられている艦内でもこうして楽しむことができる。
でも、ホロ花火は音なんかしないはずなのに、と思ったら、あずにゃんが内蔵スピーカーで効果音を鳴らしてくれているのだった。
「ボイスパーカッションなのにゃ!」
とあずにゃんは得意げだけど、そりゃロボットだから、いくらでもリアルな音を再生できる。
火薬のような強い輝きではなくて、どこか儚げな風情の残る燐光を放つホロ花火を見上げていると、この短い休暇もとうとう終わるんだ、という実感が込み上げてきた。
淋しいけれど、でも艦底居住区で働くあの日々だって、そんなに悪いものじゃないんだと私は感じていた。素敵な休暇は、たまにあるから輝くんだ。また、みんなに会いに来ることだってできるのだから。
その時だった。赤いランプを光らせた一台のパトロールカーが、ダイナーの前で停まった。降りてきた保安警察の隊員さんの姿、というか立派な口ひげには、見覚えがある。あの時駆けつけてくれた、ドミンゴ軍曹だ。
「こんばんは、失礼しますぞ」
制帽をちょっと持ち上げて、軍曹はわたしたちに挨拶してくれた。
「花火を上げる音が聞こえましたのでな。まさか、火薬類を使っておられるということは……」
「大丈夫、軍曹さん。ちゃんとホロ花火ですわ。良かったら、一緒にご覧になりませんこと?」
ユカータ姿のドロシーさんが微笑みかける。
「花火の音はボクのボイパなのにゃ。保安警察が勘違いするくらいにリアルなのにゃ」
あずにゃんはまた得意げな顔をする。
「なるほど……それなら構いませんが、勘違いされてはいかんからね。音は控えめに」
軍曹にそう言われて、そこからは音量を下げ気味に、わたしたちのホロ花火大会は続いた。
「儚げでいいもんですなあ、静かなホロ花火と言うのも!」
ドミンゴ軍曹は感極まったような声を上げる。
「あの、ところで軍曹」
マスターがたずねた。
「今夜はみなさん、ずいぶんものものしい警戒ぶりですが、何かあるのでしょうか?」
「ああ、それはですな……」
軍曹がそう言いかけるのと同時に、鋭いサイレンの音が鳴り響いた。
「来たか!」
鋭い目をして、軍曹が頭上の星空を見上げる。
「みなさん、そのネコ耳くんの様子に注意を。『敵』のパルス電磁波攻撃が来るかも知れませんぞ!」
その言葉で、わたしは気づいた。この前の、AIチップへの攻撃は、太陽系外からやってくるという、謎の「敵」によるものだったのだ。わたしにとっては、今まで全く実感のなかった「宇宙戦争」に初めて触れた、これがその瞬間だった。
「この前は油断して、カウンターでうたたねしていたところを易々と縛られたが、今日はやらせん!」
鋭い目つきに変わったマスターが、何かの拳法みたいな構えをとる。
「大丈夫、荒縄は片づけたわ」
ドロシーさんは辺りを見回してうなずいた。いや、それだけで大丈夫とは言えないのでは……。
モニター画面に映るあずにゃんの目が、ぐるぐると回り始めた。表情も、段々凶悪なものに変わって来る。これは、「敵」の攻撃だ。
「アラ……ナワ……。ボクの……アラナワ……」
なぜだかやはり、みんなを荒縄でしばることにこだわっているらしい。止めないと。
「だめ! あずにゃん!」
とわたしは叫んで、あずにゃんのところへ駆け寄り、その寸胴のボディーを渾身の力を込めて抱きしめた。
「正気に戻って! でないと、わたしまたあなたを……」
またドゴス! と吹っ飛ばして、ドンガラゴンと転がして、何らかの鈍器を頭に叩きつけることになってしまう。そんなの嫌だ。
「ク、クルシイ……にゃ。身動きデキナイ……のにゃ。ツブサレル……」
死にそうな顔をするあずにゃん。でも、二度とみんなに危害を加えさせるわけにはいかない!
画面内のあずにゃんの顔がふいに、すっ……と、まるで幽霊のような薄い半透明の姿に変わった。まさか、締めすぎて魂が抜けた?
「すまないが、お嬢さん」
急にどこからともなく、渋いバリトンのイケボが大きく響いた。
「抱きしめてくれるのはいいが、それではこのボディが壊れてしまう。少し、力を弱めてはもらえないか」
わたしはびっくりして、腕をゆるめる。
「ありがとう。このロボットにあなた方を攻撃させるのは、今日はやめておくことにしよう。その代わり、少し我々の話を聞いて欲しい」
その声は、あずにゃんの頭部のスピーカーから発せられていた。だが、これはあずにゃんを乗っ取った相手、つまり「敵」の言葉なのに違いなかった。
みんな驚いた顔で、豹変したその姿を見つめていた。
(最終話「短い休暇の終わり」に続く)
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