絶対零度の仮面を溶かす、一瞬の手のぬくもり

 雨音に滲む静かな痛みと、小さな命のぬくもり――失恋で傷ついた静の心に、眞城くんの「絶対零度」の仮面の奥に隠された孤独と優しさが、そっと新しい風を吹き込む物語ですね。剣道で強くあろうとする彼が、体調不良で見せる脆さ。その手のぬくもりに触れた瞬間、静の心がふるえる描写が本当に繊細で、胸がきゅっとしました。

 まるで私たち読者も一緒に、雨の日の軒下で猫を抱きしめているような、静かでやさしい時間が流れていきます。誰にも見せなかった素顔や、すれ違う孤独――その小さな気づきが、静の世界を静かに塗り替えていく過程が美しくて、涙が滲みました。

 静かだけど確かな、新しい恋の予感に胸があたたまる、青春ラブストーリーがお好きな方に、ぜひ触れてほしい作品です。

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