【カクコン11短編】(G5)もしもシンデレラが舞踏会で忘れたのがガラスの靴でなくてGカップのブラジャーだったら

七月七日

第1話(一話完結)

「あぁ〜、疲れたぁ」

 京香は部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。


 女性向けワンルームマンションの二階、窓を開けたらすぐに隣のマンションの壁が見える部屋。陽当たりは最低。


「ダメだ、このままだと寝ちゃう」

 眠気とダルさを振り払って起き上がる。通勤用のスーツを脱いでハンガーに掛け、クローゼットに仕舞う。


 ブラウスの襟の汚れを確かめて、うん、もう一日着れると呟き、それもハンガーに掛けてクローゼットの扉を閉めた。


 下着だけで浴室に入り、素っ裸になって身につけていたパンティとブラジャーを洗濯ネットに入れてから洗濯機に放り込む。


 シャワーを浴び、下着タンスから出した洗濯済みのパンティを履いて、シャンプーした髪をドライヤーでざっと乾かす。


 パジャマ代わりの灰色のスウェットの上下を着て、買ってきた惣菜をレンジに放り込み、冷蔵庫を開けてビールを飲もうとした。


 まるでオッサンのようだが、これが京香の日常である。


「ないじゃん!」


 そっか、昨日最後の一本飲んじゃったんだ。どうしよっかなぁ。うーん、やっぱ飲まなきゃやってられん!コンビニ行くぞ!


 セクハラ部長のいやらしい視線に我慢できなくなって前職を退職し、転職した新たな職場で嫌な事があった。ちょっとしたミスをおつぼねが大袈裟に取り立てて延々とお小言を言われた。


 パワハラじゃん、いやミスしたのはしたんだけど。新人なんだから少しは多めに見てよ!


 もう嫌だ。また辞めたい。でもあんまり転職するのもなぁ。どこかの大金持ちのプリンスが現れて、結婚してくださいとか言ってくれないかなぁ。ドバイでもいいよ、できればイケメンがいいけど、贅沢言わないからさ〜。


 むしゃくしゃしたので、スーパーで買った惣菜で一杯飲みながら、親友の由紀相手に愚痴を溢そうと思ってたのに!


「やっぱ買ってこよう!」


 スマホと部屋の鍵だけ持ってコンビニに出かけようとした京香だが、スウェットの下はノーブラだった。


 うーん、ちょいまずいかなぁ。


 京香はGカップの巨乳だ。爆乳と言っても良い。スウェットだけではその盛り上がった双丘と、トップに君臨する突起が目立つし、歩く度に揺れて男どもの目を引く。


「仕方ない、ブラジャーつけよ」


 下着タンスからさっき履いたパンティとお揃いのブラジャーを取り出して付け、スウェットをもう一度着てから薄い上着を引っ掛け、ピンクのクロッ◯スを履いて京香は部屋を出た。


 コンビニに行くには、広い道路を渡らないといけない。歩行者信号が青になったのを確認してから、京香は横断歩道を渡り始めた。


 その時、一台のトラックが信号無視して猛スピードで交差点に突っ込んできた。


「ひっ!」


 ☆★


「シンデレラ、何、寝たふりしているの!」

「その変な服は何?」

「私たち、舞踏会に出掛けるから、ちゃんと後片付けやってて頂戴よ」

「何?その顔は!何でキョトンとしてるの!ホントに嫌な子ねぇ」


 シンデレラ? あたしの事? そうか、これが今流行りの異世界転生って奴? さっき横断歩道を渡ろうとしてトラックに轢かれたから、あたし死んじゃったんだ。で、シンデレラになった⁈


「さっさと仕事始めなさいよ、全く、使えないわね!」


 使えない、今日お局から言われた言葉だ。そう言えば、この継母らしき女はあのお局そっくりだ。


「お母様ったら、シンデレラなんかに構ってないで、早く出掛けないと舞踏会に遅れるわ」


「はいはい、アネスタシアもドリゼラも、今日はとても綺麗よ。あなた達のどちらかが王子様の花嫁として選ばれても不思議じゃないわ」


 親の欲目って奴ね、二人ともブスじゃん!母親似なのね、かわいそうに。


「忘れ物はない?馬車を待たせてるわ。急ぎましょう」


 三人は舞踏会に出掛けて行った。


 ★☆


「あたしも、舞踏会に行きたいわ!」

 確か、シンデレラがこう望んだら、魔法使いが出て来るのよね。


「そうかい、舞踏会に行きたいのかい」

 何処からか、しわがれた声が聞こえて来た。


 来たー!


「はい、王子様に会ってみたいです」


 すると、いかにも魔法使い然とした格好のお婆さんがぼよよ〜んと現れた。杖を持っている。


「舞踏会に行かせてあげよう」

 そう言ってお婆さんが杖を振ると、京香のスウェットが美しいターコイズブルーのドレスに、クロッ◯スはガラスの靴に変わった。髪もアップになり、ドレスと同色のイヤリングが揺れる。


 そして、そこにあったかぼちゃを馬車に、ネズミを馬に変えた。


 最後にあのセリフだ。

「十二時を過ぎたら魔法が解けて全部元通りになるから気をつけるがよい」


「分かりました。ありがとう、お婆さん」


 こうして、京香は舞踏会に乗り込んだ。


 お城に着くと、もう舞踏会は始まっていた。女たちは皆、王子からのダンスの誘いを待って、王子の周りに集まっている。

 だが京香がホールにはいると、ざわめきが起こった。


 ターコイズブルーのドレス、同色の髪飾り、凝ったデザインのアクセサリー、それに何よりも、スタイル抜群の京香の肢体にみんなの視線が釘付けだ。


 鎖骨の下から圧倒的な存在感を示しながら盛り上がった滑らかな肌は、ホンモノのGカップの巨乳。寄せて上げて作ったニセモノの胸ではない。


 二つの盛り上がりの間に造り出された谷間は、髪の毛一筋も入る隙間がない。


 更にキュッと締まったウエストからなだらかに膨らむ腰のラインは、陶器の壺のように優雅でしなやかで、そこに集う者全員を魅了した。


 しかも、京香は今でこそオッサンのような生活をしているが、実はかなりの美形なのだ。高校生くらいになると、毎日のように下駄箱にラブレターが入っていたし、大学時はミスキャンパスにも選ばれた。


 女たちに囲まれていた一人の男性が、京香の元にやって来て、片足を後ろに下げ、片手を腹の辺りに置く、例のあの挨拶をした。


「僕がこの城の王子、チャーリングです。どうかダンスを踊っていただけますか」


 出た〜、プリンス・チャーリング。イケメン王子じゃん! 確かシンデレラに一目惚れすんのよね。


「喜んで」


 ダンスなんか出来ないけど、何とかなるわよね。


 ひとしきり、適当にダンスを踊ると、プリンスは京香を誘ってホールを出た。女たちのざわめきをよそに、プリンスは自室に京香を連れ込んだ。


「貴女に一目惚れしてしまいました。どうか僕と結婚してください」


 展開、早っ。もうプロポーズ? でも、これを逃す手はないわ。


「はい」

 京香は、少しはにかんだフリをして応えた。


「名前を教えて下さい」

 プリンスは、京香の手を取って聞いた。


 名前、名前、シンデレラは確か灰被はいかぶりって意味だからまずいよね。もう本名でいいか!

「キョウカです」


「キョウカ、いい名前だ」

 そう言って、プリンスは京香にキスをした。深い、長いキスを。


 唇を離すと、プリンスは、京香のドレスを脱がし始めた。


 えっ、もう? 展開、早っ。


 普通ならこの時代、コルセットなどでぎゅーぎゅーに締めつけてドレスを着るのだが、京香のドレスの下は転生前に身につけたブラジャーとパンティだけだった。


 下着姿の京香を目にして、プリンスは目をみはり、ごくりと生唾を飲んだ。そのまま京香を姫抱っこしてベッドに横たえると、自分もパンイチになった。


 意外といい身体してるわ、適度な筋肉もついてる。


 その後のことは、ここで詳しく書くとカクヨム規定違反になるので捨象するが、京香はうっかり魔法使いとの約束を忘れてしまうくらい、プリンスとの情交に没頭してしまったのである。


 プリンスはプリンスで特に京香のなまのGカップに執心し、その柔らかさを絶賛して吸ったり揉んだり顔を埋めたりして文字通りのめり込んでいった。


 朝方、京香は目を覚ました。


 ふぅ〜、何て絶倫なんだろ、この男。イケメンなのに絶倫ってアリなの?


 京香の中の絶倫は、頭が禿げて、脂ぎってて、胸毛やら臑毛がやたら濃い男性ホルモンつよつよの男というイメージしか無かった。


 悪くないわ。てか、約束忘れてたぁぁぁ〜!


 ドレスを探したが、床に散らばっているのは、京香が初めに着ていたスウェットとクロッ◯ス、それにパンティ。素早くそれらを身に着けて、部屋をこっそり出ようとし

 あれ?ブラジャーは?


 ベッドの上には、すっぽんぽんのプリンスが、寝息を立ててぐっすり眠っている。しかし、あれだけのになお、プリンスのプリンスは朝の生理現象に忠実に従っている。


 元気ね。


 その身体の下にブラジャーの紐が見えた。

 引っ張ろうとしたが、取り出せなかった。


 まずい、起こしたら面倒くさい事になる。もういいや、このまま帰ろう。


 京香はブラジャーを諦めて、城をこっそり抜け出た。意外とセキュリティが甘い。


 馬車ももちろん無かった。京香は、通りすがりの荷馬車に乗せてもらって、うろ覚えの家まで帰って来た。


「朝帰りなんていい度胸ね、シンデレラ!」

 帰るとお局そっくりの継母が待っていた。


 とりあえず謝って、適当にスルーして、多分シンデレラがやらされていたと思われる仕事をこなした。


 ブラジャーが無いのはとても不便だった。とにかく揺れる。この家の継母と二人の義姉のものは到底サイズが合わない。


 仕方がないので布を巻いて、揺れないように抑えておいた。このままここに住むのなら、ブラジャー問題を何とか解決する必要がある。


 そんな時、プリンス・チャーリングが、舞踏会で忘れていったあるモノの持ち主を探しているという噂が流れた。


 ガラスの靴!


 京香はそう考えた。いや、待てよ。ガラスの靴は、魔法が解けて消滅したはず。

 え、まさか。ブラジャー? プリンスがブラジャー持って探し回ってる?


 そしてついにシンデレラの家にも、プリンスの家来たちがブラジャーを持ってやって来た。金糸で縁取られた真っ赤なサテン地のクッションの上に、京香のGカップのブラジャーが恭しく置かれているのを見て、京香は吹き出した。


 アネスタシアとドリゼラは、我先にとブラジャーをつけようとした。そもそも京香のブラジャーは、七十五G、つまりアンダーバストが七十五センチで、トップバストが百センチ、アンダーとトップとの差が二十五センチだからGなのだ。


 ちなみにアンダーとトップの差が二十七.五センチくらいだとH、三十センチくらいだとIカップだ。(ワ◯ールHPより)


 二人の義姉は、アンダーバストさえ八十センチ以上ありそうなので、入る訳が無い。それを無理矢理引き伸ばしてホックを留めても、カップが相当余る。彼女らは、脇腹やら背中やらの肉を無理矢理かき集めてみたが、Gカップの隙間は埋まらなかった。女の家来がその様子を見て呆れている。


 二人は諦めた。そもそも自分のブラジャーじゃない事は初めから分かってるのに何故?と、京香が心の中で突っ込んでいると、家来の一人が、京香を指して、あのお嬢様は?と問うた。


 ほら来た、物語と同じ。原作ではここで継母がごちゃごちゃ言うけど、結局シンデレラが靴を履くとピッタシなのよね!


 と言う訳で、もう分かっていると思うけど、そのブラジャーがピッタシ合った京香が、王子様とめでたく結婚し、幸せに暮らしたとさ。


 おしまい


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【カクコン11短編】(G5)もしもシンデレラが舞踏会で忘れたのがガラスの靴でなくてGカップのブラジャーだったら 七月七日 @fuzukinanoka

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