第35話 旅立ちの日に
───────────────
親愛なるおじいさまへ
ご無沙汰しています。お元気でいらっしゃいますか?
あたしは、今日──大きな節目を迎えました。
タンポポの綿毛たちが、アカデミーを卒業しました。
みんな、笑顔で、まっすぐで、ちょっぴりドジで……
でも、とっても誇らしい生徒たちでした。
校門を出た彼らは振り返って、あたしと、レオナルド先生と、
半年程度の短い期間だったけど、彼らの学び舎に向かって、
深々と頭を下げてから旅立っていきました。
アカデミーじゅうに響くくらい大きな声で、
「ありがとうございましたーー!!!」って叫んでた。
泣けてきちゃいました。
彼ら、タンポポの綿毛は風に乗って、どこまでも、自由に飛び回ることでしょう。
そして行く先々で大きな花を咲かせていくに違いありません。
彼らを見送ったあとは、いつもより青空が高く、広く見えました。
最初は、右も左もわからずにやって来たこの地で、
まさか“先生”になるなんて、あたし自身、思ってもいませんでした。
だって、あたしは冒険者になりたかったんですよ?
世界中を旅して、いろんな人と出会って、
知らない景色を見て、知らない出来事に胸を躍らせて──
でもね、おじいさま。
あたしは、ちゃんと“冒険”できていたのかもしれません。
教えるという冒険。
生徒たちと向き合うという冒険。
毎日が、ドキドキして、不安で、楽しくて、愛しくて……
そんな日々は、あたしにしかできない冒険の旅でした。
教室へ戻ると、みんなからの寄せ書きが残されていました。
いつの間に書いてくれんだろ──
みんな、あたしと過ごした日々を振り返って、
ひとりひとり、言葉を残していってくれたんだと思います。
アルフレッドくんは、「いつか先生と一緒に冒険したい!」って言ってくれました。
お調子者で元気いっぱいで、一番仲間想いで、誰よりもまっすぐな子です。
俺が先生を守るって、拳を握ってたんですよ? ふふっ、頼もしいでしょ?
デュロスくんは、少ない言葉で「ありがとな」って。
無口で不器用だけど、みんなのこと、すごくよく見てる。
背中で語るタイプっていうのかな。優しさがちゃんと伝わってきました。
シルフィちゃんは、あたしのこと「大好き♡」って。
明るくて、甘えん坊で、でも誰よりも周囲に気を配っていて。
おしゃれもお喋りも大好きな女の子。恋バナ、またしてあげないとです。
フーリオくんは、あたしのこと「目標にしたい」だって……
しっかり者で博識で、どこか大人びていた彼がそんなことを言ってくれるなんて、
ちょっと泣きそうになっちゃいました。あの真っ赤なスープ、また作ってくれるかなぁ。
マリルちゃんは、ぎゅーってしたくなるくらい可愛い魔法少女♡
「いつか魔法の花火を一緒に打ち上げようね」って、満面の笑みで綴ってくれていました。
──もちろん、いつの日にか、みんなで花火を見上げたいです。
アランくんは、「先生が僕たちの進むべき道を照らしてくれた」と……
冷静で頼れるリーダータイプだけど、誰よりも繊細で、よく悩んでた子。
だからこそ、彼の言葉が胸に染みました。
みんながあたしに、たくさん「ありがとう」って言ってくれました。
でも、それはこっちの台詞なんです。
ありがとう、タンポポの綿毛たち。
ありがとう、レオナルド先生。
ありがとう、おじいさま──
あたしは、ここで、悩んで、笑って、たくさんの宝物を手に入れました。
まだまだ、旅は続きます。
生徒たちはそれぞれの空へ羽ばたいていき、
あたしも、次の“冒険”へ進む準備を始めようと思っています。
お話ししたいことが多すぎるので、近いうちに一度、お屋敷に帰りますね。
おじいさまのご健康とご多幸を、心よりお祈り申し上げます。
敬具
エリーシャ
~追伸~
おじいさまのガラクタ……もとい、お宝部屋にあった、”古代文字が刻まれた石板”ってまだ、ありますよね?
───────────────
~Fin~
~あとがき~
最後まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!
「★★★」「♥」で応援して頂けると嬉しいです。
『エンシェント・ワーズ』の本編は、何年も前から妄想だけ温め続けていて、まだほんの一部しか書けておりません。
今回、ひょんなキッカケから、外伝的に冒険者アカデミー編を先に書き上げるに至りました。
本編の主人公は、永遠の命を授かってしまったアルフレッドになるのですが、今作ではエリーシャという新たなキャラが生まれてしまいました。また、レオナルドやベイルの物語も外伝的に妄想だけが広がり続けております…。
本編の方は『エンシェント・ワーズ ~永遠に続くかもしれない物語~』と題して、いつかお披露目できるように頑張りたいと思います。
もしご縁がありましたら、また別の作品でもお会いできれば嬉しいです。
それでは、またどこかのページで──!
エンシェント・ワーズ ~タンポポの綿毛たち~ 角山 亜衣(かどやま あい) @Holoyon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます