第4話
随分と長い間歩いていた気がする。知らないうちに太陽は傾き始めて、ほのかに赤らんでいる。
さすがに、帰らないといけなさそうだ。
歩いた時間は長いが、そこまで距離を歩いたわけではない。ゆっくり歩いたというのもあるし時々休んだりもしていた。住宅地が何度か大通りに変わって、何度か住宅地に戻ったりはしたけれど、それくらいだ。
くるりと体を反転させて、太陽を背にして帰路につく。ここから休まずに行ったら六時くらいには家に着けるだろうか。ポケットからイヤホンを取り出して、耳に付ける。行くときは音楽なんてなくても行けたけれど、さすがに同じ景色を二回も見るとなると音楽がないと暇になる。それに音楽を聞くと思考がいい感じに散る。音楽を聞きながら頭をからっぽにしたら、きっと家なんてすぐにつく。
適当に選んで、曲を流す。ここ数年聞いているアーティストは変わっていない。昔から好みが変わっていないだけなのか、私が成長していないだけなのかはわからない。勧められた曲もはじめはちゃんと聞いていてもいつの間にか聞かなくなってそのままだ。
耳から慣れ親しんだ曲が流れて、ぼんやり歌詞に耳を傾ける。ああ、これって失恋の歌だったっけ。片思いの歌。
そんなことに気が付いて無性に悲しくなる。そうだね、つらかったね。やっと、曲の主人公を理解できたような気がして、うれしくなったと同時に悲しくなる。
思考が脳で散乱する。頭の中で勝手に私が私に話しかけてくる。やめてくれ。やめてよ、もう。
好きじゃなくなったって知ったら悲しいから、わからないふりをしたんだよね。だって終わったって知ったら悲しいから、わからないふりをした。痛いって、思いたくないから。怖いから。
一人になってしまったから。
それを自覚したくないから、ずっと、逃げていた。
そんな事知っている。ずっと知ってる。知ってるよ。
鼻の奥がツンとする。
ああ、だめだ。
泣いちゃだめだ。
うずくまりたくなる気持ちをどうにか抑えて、道を歩く。こんなところで座ったら迷惑がかかる。せめて、家まで。
そう思ったけれど、一度決壊しかけた感情はそのまま止めどなく流れてしまう。私という人間の意思が弱いことをすっかり忘れていた。
せめてもの抵抗で人の少なそうな路地に入り、座り込む。
涙でかすむ視界には、あたたかい、やさしい存在は映らない。そんなことわかっていたはずだったのに、やはりそれがひどく苦しい。
これから先、またあたたかいやさしい存在に出会えるかもしれない。けれど。
いま、誰にも涙をぬぐってもらえないことがひどく悲しかった。夢の中で出会うあの日の君だけじゃ、どうにも毎日が辛くなる。
手の中で缶の無機質さが主張してくる。固くてつめたい。
君がくれた言葉が、やさしさが、こんなにも苦しくなるなんて思わなかった。
日がくれていく。かすむ視界で分かるのはそれくらいだった。
くれたさきで 宵町いつか @itsuka6012
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