よこしまな祈り
沼モナカ
◯
「どうぞ、こちらに」
安アパートの一室にうむ、と頷いて玄関を通る男の姿。
自称霊媒師の沖は、この部屋に一人暮らしをしている若い女に一瞥をする。
瑞々しい肌、それとはなく豊かな胸、そして良い顔立ちをしている。
心の中で舌なめずりをしながら、沖は部屋の隅々を見渡してみる。
家具やぬいぐるみもあるが、それよりも圧倒的にゴミが山積みになっている。
女も見てくれは良いが、そこまで器量良くはないのだ。
今、沖の頭では霊の事よりも、依頼者の女からどれだけ金品を巻き上げて、性交に何時間ふけられるかで一杯である。
なので、必然的に場当たり的ないい加減な仕事を行う。
「このぬいぐるみが詰まった棚を見ろ。ここに良くないモノが溜まっている」
「え!? そうなんですか!?」
「うむ。これは大変に危険だ。我のお祈りで今から綺麗にしてやろう」
「ちなみにおいくらですか?」
「うぅむ。これは大変に危険だからな。10万円ぐらいだな」
「ええええ!? 私の生活費!? それじゃ今月があ…」
「ならば呪われた部屋で生活して良いのか? このままだと天国へ行く事が出来なくなるぞ?」
「ううう」
「よし、ならばこうしよう。この後ホテルに一緒に行くのだ」
「は? は!?」
「わかったな!!!!」
これで女は黙った。困惑した女をよそにいよいよお祈りに取り掛かる。
それで終わればしめたモノ。女は頂けるし、遊び仲間に紹介すれば、酒も奢ってもらえるだろう。まさに一石何鳥だ。
「オンガカカッテー インカワアッチャー アアアー ハー」
この後の事で頭が一杯で、沖の真言はいい加減の極みであった。何なら前の節でさえもすぐさま抜け落ちている。
(よし、やったぞ)
沖は心の中で勝利宣言をし、いざ女に勝ち誇った面を向けたその時であった。
女の様子が明らかにおかしい。
全身が強張り、口がわずかにウゴ、ウゴと動かしている。
更におかしいのは女の目。殺意の様な、嘲りの様な、はたまた呪いの一瞥か。
ビクン!っと沖の脳が震える。
沖、沖
頭の中で声が反芻する。
「え? え? 何? なにこれ?」
沖、女を食え、女の肉を食え
「やめろ!! なんだよこれえ!」
いい加減な祈祷は霊を払えるのか? 違う。返っておかしな何かを呼び寄せただけである。
僧侶の様に修行を積み重ねてもいなければ、祈祷家のように正しい技法も知らない。
生兵法は大怪我の元とはよく言ったものである。
「あ、あ、あ」
沖はふらふらとアパートの外へと出ていく。邪霊が大量に待つ、街の中へと。
倒れている女の事も忘れて。
なんてことは無い。邪なる存在達への贄が一人出てきただけだ。
ただ、それだけの結果。
よこしまな祈り 沼モナカ @monacaoh
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