中華後宮でバリバリ活躍する賢いヒロインを突き動かすのは、迷いなき殺意
- ★★★ Excellent!!!
本作の主人公・雪蓮は、後宮で暮らす人たちの困り事の相談役。どんな音でも聞き分ける類稀な「耳」を頼りに、わずかな手がかりから数々の難題を紐解いてきました。
そんな彼女がいつか相見えることを切望するのは、母親を殺した仇敵。
慎ましくも幸せだった幼少時代をめちゃくちゃにした憎き相手を見つけ出し、自らの手で殺すため、雪蓮は「音」を聞き続けるのです。
まず、雪蓮の聡明さがすごくいいです。
彼女は「音」から真実を捉えていくのですが、人と人との間にある機微もまた正確に聞き取ります。
さまざまな思惑の蔓延る後宮において、偏見なくフラットな感覚で相手の声を聞く。だからこそ大事なものを逃さない。そうした彼女の姿勢は痛快ですらあります。
竹を割ったような性格の侍女・紫苑や、快活な若き武官・翼忠、したたかで懐の深い貴妃・白華妃など、脇を固める登場人物たちも魅力的です。
彼らと雪蓮との間に紡がれていく信頼関係が心強く、奥行きのある人間ドラマを形作っています。
貧しい村の出身であるはずの雪蓮が、皇帝からの寵愛を受けるわけでもなく、なぜ寵妃に近い立場で後宮に置かれているのか。
雪蓮の元に寄せられる相談事や事件の背景には、いったい何があるのか。
母親はなぜ殺されなければならなかったのか。
仇敵は、後宮のどこに潜んでいるのか。
復讐の物語は、畳み方を一歩間違えるとものすごい消化不良に陥りがちだと思うのですが、本作はこれ以上ない見事な幕の下ろし方で、思わず嘆息しました。
ラストシーンまで見届けた今、雪蓮の幸せを願ってやみません。
清々しい読後感で、読み応えある中華後宮ものでした。ぜひご一読ください!