【短編】誰かに向けて吐き出した言葉
ムスカリウサギ
誰に?
白くてにごった、息を吐く。
腐った卵みたいな息を吐く。
「死ねばいいのに」
それは誰に向けた言葉だったんだろう?
代わり映えしない日常はいつだって退屈なくせに、不可解なほど嫌な思い出ばっかり残していく。
髪型を整えて、お化粧をする。
おろしたての新品の服で、全身ばっちり揃えて出掛けようとしたら、玄関に並ぶくしゃくしゃに履き潰された薄みっともないスニーカーを見てがっかりする。
そんな朝からクソみたいな気分で家を出て、最初にすることは『溜息を吐く』だ。なんて馬鹿げてるんだ。靴が汚いのは自分のせいってのもポイントだ。要は全部何もかも自分のせい、自分の詰めの甘さのせい、あれもこれもそれもどれも全部全部自分のせいだ。
嫌な気分すぎてビックリだよ。
綺麗な人を見ると、
成功してる人を見ると、
楽しそうな人を見ると、
つまんないな、なんて言葉は、自分がどれだけつまらない人間なんだろうって思い知らされるようで、大草原。
もっと前向きになれよなんて偉そうに言われたら、うるせぇよお前にはわたしがどんな風に見えてんだよと突っかかってやりたくなる、理不尽。
なのに評価されたらされたで、はいはい帳尻合わせで褒めてくれるのねみたいに周囲をシャットアウトしてしまう、
笑うことはとても簡単に出来るの。
問題はそれがどこに向かってるのかわかんないってこと。
嬉しくて笑う、悲しくて泣き笑う、見下したくて
疲れちゃって愛想笑い、挑発的に高笑い、誤魔化そうとして苦笑い、前を向こうとして薄ら笑い。
全部全部嘘つきたくて、微笑みを浮かべたら、急に褒められて照れ笑い。
背中を向けて、はっ、なんて鼻で笑って、はいおしまい。
そんな気持ちに蓋をして。
今日もわたしは息をする。
「生きてるって素晴らしい」
それは誰に向けて言ってんだ畜生。
【短編】誰かに向けて吐き出した言葉 ムスカリウサギ @Melancholic_doe
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