第7話「普通」の波 - 結婚、妊娠、そして初孫
:加速する「普通」の波 - 結婚、妊娠、そして初孫
畑中さんとの顔合わせから、あれよあれよという間に、時は過ぎていった。私の「結婚の定義」は、畑中さんと共に、着実に、そして、驚くべきスピードで、現実のものとなっていった。
「結婚したら、したで変わるもので…」
それは、家族で交わされた、あの「結婚の定義会議」の、父の言葉だった。そして、まさに、その言葉通り、私の人生は、予想もしていなかった方向へと、加速していった。
「ななみ、畑中さんと、来月、入籍することになりました。」
ある日、私は、家族に、そう報告した。父は、新聞を広げたままで、「ふむ」とだけ応じた。母は、感無量の面持ちで、「あら、そうなの。おめでとう」と微笑んだ。睦実は、嬉しそうに、「お姉ちゃん、ついに!おめでとう!」と、私を抱きしめた。
畑中さんと私は、お互いの「個」を尊重し、心地よい距離感を保ちながら、穏やかに、しかし、着実に、関係を深めていった。マンションでの仕事に集中する時間も、畑中さんと過ごす時間も、どちらも私にとっては、かけがえのないものだった。姓を変えずに、結婚することへの、世間からの些細な「不都合」は、畑中さんとの協力と、私自身の工夫で、乗り越えていった。
そして、結婚して、三年。
「ななみ、畑中さん、おめでとう!ついに、お母さんになるのね!」
母の声は、喜びと興奮で、弾んでいた。彼女は、病院から送られてきた、母子手帳の写真を、指でなぞりながら、満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう、お母さん。でも、まだ、始まったばかりだよ。」
私は、少し照れながら、お腹をさすった。畑中さんも、私と同じくらい、いや、それ以上に、興奮していた。彼は、私の傍らで、「ななみ、大丈夫?無理しないでね。」と、何度となく、優しく声をかけてくれた。
「初孫よ!ついに、初孫よ!」
父は、新聞から顔を上げ、満面の笑みで、私達を祝福した。彼の顔に、あんなに嬉しそうな表情を見るのは、初めてかもしれない。
「お父さん、ありがとう。」
「いや、いや。お前さんの『結婚の定義』は、どうなったんだ?マンション借りたり、寝室別だったり、色々言ってたじゃないか。」父は、少し、冗談めかして、私に尋ねた。
「うん、でも、それも、全部、大切だよ。」私は、笑顔で答えた。「畑中さんと、お互いを尊重しながら、自分の時間も、仕事も、大切にしながら、そして、これから生まれてくる、この新しい家族も、大切にしていきたい。」
「そうか…。」父は、満足そうに頷いた。「ならば、それでいい。」
睦実が、「で、お姉ちゃん、結婚への定義は、どこへ行っちゃったの?(笑)」と、私に、からかうように尋ねてきた。
「ははは!」
その言葉に、父も、母も、そして、畑中さんも、大爆笑した。
「定義は、ここにあるよ!」私は、お腹を指差しながら、笑顔で答えた。「家族が、増えること。そして、お互いを、大切にすること。それが、私達の、新しい結婚の定義だよ。」
「家族が増える、ね。」母が、感慨深げに言った。「それは、また、新しい「普通」なのかもしれないわね。」
「そうね。」畑中さんが、私の手を握りながら、微笑んだ。「でも、これは、私達だけの「普通」だから。」
私たちの「結婚の定義」は、いつの間にか、家族という、より大きな「普通」の中に、溶け込んでいた。しかし、それは、私が、かつて恐れていたような、個性を失った「普通」ではなかった。それは、個を尊重し、互いを大切にする、という、私達の意思が、家族という温かい輪の中で、さらに豊かに、そして、力強く、育まれていく、そんな「新しい普通」だった。
結婚して、早々妊娠、出産。そして、初孫。
私の「結婚の定義」は、一体どこへ行ったのだろうか?
いや、どこへも行っていなかった。それは、私の中に、畑中さんとの間にも、そして、家族という温かい関係性の中にも、しっかりと息づいていた。
「私達の結婚の定義は、常に、進化していくものなんだ。」
私は、そんな風に、心の中で、そっと呟いた。そして、家族みんなで、温かい笑いに包まれていた。私の「結婚」は、まだ、始まったばかりなのだ。
『結婚の定義とは?』 志乃原七海 @09093495732p
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