貴方は占いを信じますか? たとえ、非常につらい、嫌な予言をされても? ーーたとえば、こんな新婚夫婦がいました……
大濠泉
第1話
ある暖かな春の夜、新婚ホヤホヤのワタシたちは、軽くバーでカクテルを
駅に向かう途中、線路近くに、こぢんまりとした公園を見つけた。
ドリンクを自販機で購入し、夫と二人でベンチで座って、酔い覚ましとして飲んだ。
夜の公園は、白い灯りがともっていて、幻想的な雰囲気だった。
そんな公園の奥に、薄明かりの下で、「占」の文字が大書された布をかけた台があった。
その台の上には大きな水晶玉があり、その後ろには老婆がひとりで座っていた。
お婆さんは全身黒づくめで、いかにも占い師然とした風情だった。
ワタシは妊娠四ヶ月で、近いうちに母親になる。
だから、子供の将来を占ってもらおうと、占いのお婆さんに近づいていった。
「お婆さん。ワタシのお腹の子について、みてもらいたいの。
どうすればいいの?」
「おめでたかい? そりゃあ、おめでたいねえ。
なに、そこに立ってもらうだけでいい。占ってあげるよ」
お金は奮発して一万円払った。
お婆さんは素早く受け取って、ニカッと笑った。
だから、気を利かせて、幸せなことを言ってもらえると思った。
が、一緒にいた夫の態度が悪すぎた。
「一万円も!? 占いを信じるなんて、ほんと、バカかよ!」
頭から軽蔑するような態度だった。
不快に思ったせいか、占い師の婆さんは、信じられないことを言った。
「あなたの子供は長生きしない。
生後半年ほどで、苦しんで死ぬ」
ワタシたち二人は絶句した。
しばらくして、短気な夫が反応した。
「て、てめえ、このババア! 脅す気か!?」
夫は掴みかからんばかりの勢いだったが、婆さんは平然としている。
「おや、アンタは占いを信じないんだろう?
だったら、気にせずともよかろうに」
夫は拳を握ったまま、前のめりになる。
が、何も言い返せないらしい。
占いの婆さんはニタリと笑った。
「でも、手立てがないわけではないよ」
皺だらけの手を出す。
もっと金を払え、ということらしい。
案の定、夫が顔を真っ赤にして怒った。
「ふざけんな。行こう、行こう!」
ワタシを
ワタシが振り向くと、占いのお婆さんは哀しげな表情を浮かべていた。
◇◇◇
それから半年ほどして、息子が生まれた。
息子は、生後すぐに保育器に移されるほどの未熟児だった。
そして、生来、病弱だった。
ワタシはハラハラし通しの育児となった。
五ヶ月が経過して、あの占いの婆さんの死の予告まで、あと一ヶ月に迫っていた。
今も息子は、幼い身体で必死に生きようとしていた。
ゼイゼイ息をしながらも、ワタシに必死にしがみつく。
そして、精一杯、ワタシに向けて笑顔を見せてくる。
「ママ、心配かけて、ごめんね」と目で語りかけてくる。
ワタシの目に涙が
この子の
ワタシは、会社から帰ってきたばかりの夫に泣きついた。
「あのときーー占いのお婆さんに要求されたときに、素直にお金を払って、アドバイスを聞いておけば良かった……」
ワタシが泣くと、夫も肩を落としていた。
当初は、苛立っていただけの夫は、怒鳴るばかりだった。
けれども、息子が生まれてきて以来、変化した。
息子の病弱ぶりに肝を冷やし、オロオロすることが多くなった。
自分の子供なのだ。
さすがに情が移ったのだろう。
今も会社から帰ってくるや、息子を抱き締めて、ワタシと一緒に泣いてくれた。
そして、ボソリとつぶやいた。
「明日の夜、あの公園に行ってみよう……」
そして、息子を義父母に預けて、あの日の公園に行ってみた。
ところがーー。
公園がなくなっていた。
ネットのマップで見たら、以前通りだったのに、実際に来てみたら、公園の周りに柵が張り巡らされ、立入禁止の看板が立てられていた。
市の施設が新築されるらしい。
それからというもの、夫と一緒に、あの占い師のお婆さんの所在を探す日々が始まった。
それでも一向に見当たらない。
息子の死が予告された、生後半年まで、あと一週間ーー。
いったい、あのお婆さんは何処へ行ってしまったのか。
誰か、教えてください。
お願いします……。
(了)
貴方は占いを信じますか? たとえ、非常につらい、嫌な予言をされても? ーーたとえば、こんな新婚夫婦がいました…… 大濠泉 @hasu777
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