暴力を愛する全ての人たちへ……

暴力に酔いたい夜のお供に。

主人公は真っ当な両親から愛情たっぷり注がれてすくすく育った生まれながらのシリアルキラー。

彼が善悪の概念を理解し、倫理観を叩き込まれた、所謂「真っ当に育てられた人間」だったことは、今際の台詞からも察することが出来るだろう。

生まれるべきではなかった異物としての自覚がシニカルな語り口とマッチングして、このダーティーな物語にベストなリズムを刻んでいるため、血生臭そうな字面と文面に反して心地良いテンポの読み味が保証されている。

社会通念と自らの殺人衝動の間で板挟みとなっていた彼の苦悩は、暴力を是とする異世界への憑依転生という力業によって綺麗さっぱり暴力的に解決されてしまう。

此岸では許されざる悪虐の限りが正当化され得る舞台へと、ナチュラルボーン・シリアルキラーが放り込まれてしまったという、嵌るべき場所にパズルのピースが嵌ったかのような、あまりにもおあつらえ向きなシチュエーション。

そこから始まる圧巻の戦闘シーン。噴き出る血飛沫の温もりやまろび出る内臓が地を叩く湿った音まで臨場感たっぷりのアクションが人類の原始的な快感を呼び覚ましてくれる。だからだろう。殺しても良い、という歓喜に打ち震える主人公の内面描写にはある種の爽やかささえ感じられる。

生まれて初めて自分らしく生きられる世界に出会えた彼の今後の人生を、怖いもの見たさで見守りたい。

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