魔女が生まれるとき

齊藤 車

魔女が生まれるとき

 昔々、見たものを石にしてしまう少女がいました。


 少女は、誰も石になんてしたくありませんでした。


 少女は一人森に行き、何も視なくていいように自分の目を潰してしまいました。


 目を潰した少女が倒れているのを、森で静かに暮らしているおじいさんとおばあさんが見つけました。


 おじいさんとおばあさんは、少女を自分たちの小さな小屋へと連れて帰りました。


 少女は高い熱を出していましたが、おばあさんが丁寧に手当てをし、おじいさんは薬草を煎じて飲ませてくれました。


 目を潰した少女にとって、世界は真っ暗なものになりました。


 けれど、その世界には、おばあさんのあたたかな手のひらのぬくもりと、おじいさんの静かな足音がありました。


 数日後、少女はかすれた声で言いました。


「私を、なぜ助けたのですか」


 おばあさんは微笑みながら言いました。


「おまえさんが、森で倒れているのを見つけたからだよ」


 少女はその言葉に、小さく首を振りました。


「私は、助けてなんて欲しくなかった。誰も、石になんかしたくないのです」


 少女は自分の目のことを話しました。


 おじいさんが、暖炉の火をゆっくりとかき混ぜながら、言いました。


「おまえさんは、誰よりも優しい心を持っているんだね」


 それから少女は、おじいさんとおばあさんの孫になりました。


 少女は、目が見えないながらも精いっぱいおじいさんとおばあさんの仕事を手伝いました。


 幸せな日々が続きました。


 しかし、あまり長続きはしませんでした。今までに少女に家族や友人、恋人を石にされた者たちが復讐に来たのです。


 復讐者たちは少女を魔女と呼びました。おじいさんとおばあさんは必死に少女を庇いました。


 おじいさんとおばあさんは、魔女の仲間だと言われて刃物で刺されてしまいました。


 少女の胸に、怒りの炎が灯りました。


 もみ合う中で包帯がはらりとほどけると、少女の目には失われたはずの光が宿っていました。


 少女がおじいさんとおばあさんを見ないよう、注意して復讐者たちを見つめると、ひとり、またひとりと石になっていきました。


 皆が石になった後、少女は硬く目を閉じて、倒れているおじいさんとおばあさんを手探りで抱き寄せました。


 おじいさんとおばあさんに、息はありませんでした。


 恐る恐る目を開けると、初めて見るおじいさんとおばあさんの顔は苦痛に歪んでいました。


 心の優しい少女はいなくなりました。


 その代わり、そこには人々を石に変えてしまう恐ろしい魔女が立っていました。

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魔女が生まれるとき 齊藤 車 @kuruma_saito

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