第3話 最後の揺れ
翌日の夜、公園に立ち尽くしていたのはユウカの友人、ハルナだった。
「ユウカが帰ってこないなんて、ウソでしょ…」
彼女もまた、あの“願いのブランコ”の噂を知っていた。そして噂の裏には、10年前に失踪した少女の話があることを、ふと思い出す。見つかったのは、使われていないスマホと、一枚の写真だけだった──泣きながら誰かにしがみつく少女。そして背後には、黒髪の少女の姿。
ハルナは覚悟を決め、夜の公園へ足を踏み入れた。風はなく、ブランコの鎖がまた軋んでいた。彼女はユウカが座った場所と同じブランコに腰を下ろす。「今度は、私が代わるから」そうつぶやいた。
その瞬間、空気がひんやりと変わる。スマホを手に、ハルナが辺りを撮影すると、画面にはやはり“あの少女”が揺れるブランコに座っていた。やせ細った顔、うつむいたままの表情、そして静かに開かれた口が、こう呟いた。
「……ありがとう」
突然、ハルナのスマホが強制的にシャットダウンした。風が吹き、公園を霧が包む。その霧が晴れたとき、ブランコには誰もいなかった。
――数日後、警察によりユウカが無事に発見された。記憶が曖昧で、公園のことをほとんど覚えていないという。
けれど、公園の防犯カメラには決して人間ではあり得ない“二人の少女”が、互いに向かい合ってブランコを揺らす映像が、しっかりと記録されていた。
以来、その公園では二つ並んだブランコの一つが、夜になると決まって一人で揺れているという──誰かが「代わってくれた」ことを、忘れないかのように。
鉄のブランコ ビビりちゃん @rebron
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