第2話 月下の少女

ユウカがふり返ったとき、誰の姿もなかった。ただ風が急に冷たくなり、公園の闇が濃くなったように思えた。スマホの画面には、いつの間にか通知が山ほど溜まっていた。「見てるよ」「代わって」「ユウカちゃん」──知らない番号からの無数のメッセージ。

震える指でスマホのカメラを起動し、公園を映す。すると画面の中には、実際にはいないはずの“少女”が、別のブランコに静かに座っていた。

その姿は、ボサボサの黒髪で顔が見えず、白いワンピースが月明かりにぼんやりと浮かび上がる。「…代わってくれたら、帰れるよ」低く掠れた声が、耳元で囁かれた。

恐怖に駆られ、ユウカは公園を飛び出しようとした──が、足が動かない。気づくと、地面に手が這い出していた。公園の土の中から、無数の白く細い手が、ユウカの足首を掴もうとしている。

「やだ…やだやだやだっ!」

その叫び声と同時に、背後のブランコがひとりでにきぃ…と鳴った。月が雲に隠れ、公園が闇に包まれた瞬間、ユウカの姿はそこから消えていた。

そして、翌朝。公園のブランコには、使われていないはずのスマホが一台、ぽつんと置かれていた。その画面には、最後に撮影された写真──ユウカの泣き顔と、背後の少女がはっきりと写っていた。

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