もとには戻らないもの
- ★★★ Excellent!!!
ある秋の日、陰湿ないじめを受けていた綾香が殺人鬼となった。学校にいた直央たちは綾香に迫られ、ひとり、またひとりとクラスメイトたちが惨殺されていく。『かごめかごめ』を歌いつつ、現れては消える綾香。彼女に好意を寄せていた直央には、いじめの記憶はない。それなのに「──ゆるさ、ない。おまえだけ、は、ゆる、さない。さいご、まで、くるし、め」と告げられ、混乱に陥る。
出口のない密室空間の中で、理屈の通じない殺人鬼と繰り広げる無限鬼ごっこ、これほど恐ろしいものがあるだろうか。直央たちは学校からなぜか出られないのだが、「鬼」はいとも簡単に出入りできるようなのだ。圧倒的に不利な絶望的状況下で、数人のクラスメイトたちは常軌を逸し、欲望のまま他のクラスメイトたちを襲い始める。かたや、別のクラスメイトたちは自分の身を挺して友達を守ろうとする。極限環境に置かれた人間が取りうる行動として、あまりにも対照的に感じられるこの行動も、もしかすると実はくるりと反転しうる危うさを孕んでいるのかもしれない。
自分たちの日常が、ある日、すぱりと切断されたら? 私たちだけが、世界の奔流から切り離され、三日月湖のよどみに取り残されてしまったなら? いや、悪夢のような「かご」に閉じ込められてしまったなら? その事実に気づかなければ、私たちは日常をそのまま続けていくのではないだろうか。成長することのない私たちは、同じ日々を繰り返すばかりだ。何を疑うでもなく、不毛さに気づくでもなく、たんたんと繰り返される日々。密室の外から見れば、恐怖と滑稽さを感じさせる、哀しい閉じた世界。
この乖離はなぜもたらされたのか? 忌まわしくおぞましい小世界から彼らが脱することはできないのか? 全てがくるりと反転したとき、あなたの目には、この世界がどのように映るのだろうか?
ぜひ、ご自分の目で確かめていただきたい。