エピローグ「日常への帰還、そして新たな一歩」
週が明けた月曜日の朝、校内には再び日常が戻ってきていた。百周年式典の喧騒が嘘のように、廊下には規則正しく生徒たちが行き交い、教室からは授業の声が聞こえてくる。
西棟二階の廊下を巡回している奥山の足取りは、いつもと変わらず規律を重んじたきびきびとしたものだ。しかし、その表情はどこか柔らかさを帯びている。
「……異常なし」
校則冊子を片手に、窓の外をちらりと確認する。春の陽射しが差し込み、校庭では部活生たちが声を張り上げている。その中に、岡元が部員たちに指示を出している姿が見えた。
「おーい、サボってんじゃねぇぞ!練習だ練習!」
その活気に引っ張られるように、奥山もつい口元が緩む。
(こうして規律正しく過ごしていることが、意外に心地よいものだな……)
すると、廊下の先から篠崎が歩いてくるのが見えた。手にはノートを抱え、微笑んでいる。
「おはようございます、奥山くん」
「……おはよう」
自然に返す自分に少し驚きながらも、奥山は気を引き締めた。
「巡回か?」
「はい。教室の掃除が終わったので、ちょっと校内を回ってました」
「掃除当番も、規律を守ってきちんとやるべきだ」
「もちろんです。でも、今日はみんなが協力してくれたので、早く終わりました」
その言葉に、奥山は小さく頷いた。
「そういえば、先週のことなんですけど……」
篠崎が少し照れたように視線を落とす。
「何だ?」
「屋上で言ったこと、覚えてますか?」
唐突な問いに、奥山の心臓が跳ね上がる。あの夜、篠崎が言った「厳しいだけじゃないあなたが好き」という言葉が、再び脳裏に蘇った。
「……あれは、その……」
奥山が言葉を探していると、篠崎が優しく笑った。
「気にしないでください。私も少し、勇気を出しすぎました。でも……これからも仲間として、一緒に頑張りましょうね」
「……ああ、もちろんだ」
胸の中が温かくなるのを感じながら、奥山は真っ直ぐに篠崎を見つめた。その瞳が微笑んでいるように感じ、思わず目をそらしてしまう。
その時、廊下の向こうから井上が眠たそうに歩いてきた。
「おー、何してんの?朝から青春してんの?」
「黙れ。お前はもっと生活指導を守れ」
「無理無理。眠いんだもん」
井上が欠伸をしながらふらふら歩くのを見て、篠崎がくすくす笑う。
「井上くん、今日もマイペースですね」
「まあ、あれでいて問題を解決する力はあるからな……」
奥山が少し呆れたように言うと、井上はニヤッと笑って軽く手を振り、そのまま教室へ消えていった。
「そういえば、今日の昼休み、またラーメン屋『紅蓮』に行きませんか?」
篠崎が楽しそうに提案する。
「……またか。だが、昼食は必要だし、付き合ってやる」
「やった!みんなにも声をかけておきますね」
そう言って駆け出す篠崎を見送り、奥山はふと自分が素直に受け入れたことに気づいた。
(以前なら、規律外の誘いは断っていただろう。しかし……)
少しずつ、自分が変わってきたことを感じている。それが悪いことではないと、今なら思える。
屋外に目をやると、校庭の隅で城田がギターを手にしながら、植松にコードを教えている。
「こうやって、指を滑らせる感じで」
「……難しい」
「大丈夫、ゆっくりやればコツをつかめるよ」
その二人のやりとりを見て、奥山は微かに微笑んだ。
(みんなと一緒にいると、不思議と気が楽になる。規律を守ることがすべてではない。仲間と共に歩むことも、大事なことだ)
静かに息を吐き出し、奥山は廊下を歩き出した。巡回を終えたら、今日は少しだけ肩の力を抜いて、みんなと笑い合おう。
夕暮れが近づくころ、校内は相変わらず賑やかだ。生徒たちの笑い声がどこか懐かしく、心地よい。奥山は、仲間とともに歩んでいく未来を思い描きながら、校則冊子を手に、今日も規律を守り続けていた。
(これからもきっと、いろんな問題が起こるだろう。でも、もう大丈夫だ。みんなとなら、乗り越えていける)
終
【校則遵守】俺と仲間たちの、予測不能な学園事件簿 mynameis愛 @mynameisai
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