第十章「金曜夕暮れ、河川敷六色の未来」
放課後の夕暮れ、河川敷には優しい風が吹き抜け、空は茜色に染まっている。草がそよぎ、遠くでは小川のせせらぎが心地よい音を立てている。奥山たちは河川敷に集まり、緩やかな坂道に腰を下ろしていた。百周年式典が無事に終わり、一週間が経った金曜日の夕方だ。
「はー、終わった終わった。なんか、やっと肩の荷が下りた気がするな」
岡元が背中を地面に投げ出し、両手を広げながら大きく息を吸い込む。その隣で井上が煙草のように空気を吸い、咳き込んでいる。
「疲れたわー。やっぱりこういう日はサボりたくなる」
「何もしてなかっただろ、お前」
奥山がツッコミを入れると、井上は肩をすくめて笑う。
「いやいや、精神的な疲労ってのもあるんだぜ?」
「どんな疲労だよ……」
篠崎はそのやりとりにくすくすと笑いながら、手作りのおにぎりをみんなに差し出す。
「今日、おにぎり作ってきました。疲れてるみんなにと思って」
「おっ、マジか!ありがたくいただくぜ!」
岡元がすぐに手を伸ばし、ほおばる。「うめえ!篠崎、お前料理上手いな!」
「ありがとう。奥山くんもどうぞ」
差し出されたおにぎりを少し躊躇しながら受け取り、奥山は一口かじる。優しい塩味が口に広がり、思わずほっとした表情を浮かべる。
「……悪くない」
「良かったです」
篠崎は安心したように微笑む。その笑顔を見て、奥山は自然ともう一口かじった。
城田はギターを膝に乗せ、ゆっくりとコードを鳴らし始める。軽やかな音色が夕焼けの中に溶け込んでいく。
「やっぱり、こうやってのんびり過ごせるのが一番だよね」
「そうだな。平和が一番だ」
城田の穏やかな声に、植松が少し考え込んだように呟いた。
「……平和とは、問題が起きない状態ではない。問題を協力して解決できることかもしれない」
「おっ、名言じゃん」
井上が笑いながら、ゴロンと寝転がる。
その時、風に乗って一枚の紙飛行機がふわりと舞い上がった。井上が折って投げたものだ。
「次はどんな騒ぎに巻き込まれる?」と雑に書かれたその紙飛行機が、空高く舞い上がり、やがて奥山の手元に落ちてきた。
「なんだこれ……」
奥山が広げて読むと、篠崎がふっと笑った。
「確かに、これだけドタバタしてきたから、次も何かあるかもしれないですね」
「勘弁してくれ……」
奥山は呆れつつも、その紙飛行機をもう一度折り直し、遠くへ向けて投げた。風に乗って、また空へ舞い上がる。
その様子を見て、城田が軽くギターを弾きながら口ずさむ。
「歩き出そう、次の月曜へ。きっとまた、笑い合えるさ」
「なんだそれ、即興か?」
「うん、みんなが楽しそうだから、ついね」
城田の歌に合わせて、岡元がリズムを取る。篠崎は手を叩きながら、井上は寝転がったまま足をバタバタさせている。
「ま、次が何であろうと、なんとかなるだろ」
井上がぼんやりとつぶやき、植松も小さく頷く。
「……問題が起きても、皆で解決すればいい」
奥山はふと空を見上げた。夕日が地平線に沈みかけ、薄暗い空には一番星が瞬いている。
(規律を守るだけではなく、仲間と協力して前に進む。それが本当の解決なのかもしれない)
心の中でそう感じた奥山は、自然と微笑んだ。
「おっ、珍しいな。奥山が笑ってる!」
岡元が指摘すると、奥山は慌てて真顔に戻る。「別に、笑ってなどいない」
「いや、笑ってたって!」
「うるさい。黙れ」
そのやり取りに、みんなが笑い声を重ねた。
やがて空が完全に夜へと変わり、星々が増えていく。六人は一緒に笑い合い、次の月曜日に向けて歩き出す準備をしているようだった。
それぞれが持つ異なる色、異なる価値観。でも、こうして一緒にいることで、不思議と調和が生まれていた。
篠崎がそっと隣の奥山を見上げ、柔らかく声をかける。
「これからも、みんなで解決していきましょうね」
「ああ、もちろんだ」
奥山は迷いのない表情で応えた。月明かりが河川敷を照らし、六人の笑顔を優しく包み込んでいた。
終
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