第5話 敵軍の侵攻

 千年前とはかけ離れた街並みを眺めながら家路をたどっていると、突然スマホからサイレンのような音が鳴り響いた。


 制服のポケットからスマホを取り出し、画面を見る。どうやら敵国の軍隊が防壁を突破し、この国に侵入してきたらしい。


 画面を下にスクロールすると、敵国に関する情報が表示されていた。莫大な資源を投じて兵器を開発し、それに魔法を組み合わせて他国への侵略を進めているという。


 なるほど‥で、どこに攻めてきたんだ? さらに画面をスクロールする。


 ん?「星稜中学校付近に敵軍が侵攻中‥」って、それ、ヤバくないか?


 その瞬間、巨大な爆発音が街中に響き渡る。本来ならすぐに逃げ出すべきなのだろう。しかし、体は自然とその音のした方向へと向かっていた。


 たどり着いたのは、学校から二、三キロ離れた住宅街だった。そこでは敵軍が魔法や戦車を使って住宅を次々と破壊していた。


 人々の悲鳴と爆発音が混ざり合い、まさに地獄絵図が広がっていた。


 「やめてくれ、やめろよ。そんなことに魔法を使うな‥」


 どうして、こんなことになったんだ。みんなの役に立つために開発したはずなのに。


 だがそこに広がっていたのは、俺が思い描いていた“魔法の作る未来”とはまるで違う光景だった。


 「おっ、こいつらいい女じゃないですか?リーダー、こいつ連れて帰るのもアリっすよね?」


 俺が硬い地面に座り込んでいると、不快な声が耳に届いた。ガラの悪い男が、制服姿の学生を拉致ろうとしていた。


 あの制服は俺の中学校の制服だ。そして、あの髪色にも見覚えがある。


「やめ‥やめてください。離してください‥」


 震えていて、弱々しい声。だけど、その声には聞き覚えがあった。助けたい。中学で初めてできた友達、夜宵を。


 だけど、魔法を戦闘に使うなんて。


 しかし、夜宵は数人の兵士に押さえ込まれ、戦車に連れ去られようとしていた。


 何を迷ってるんだ俺は。人のために作った魔法だろ? だったら今、ここで使わなきゃ意味がない。


 魔法で作り出した水球を空高く打ち上げ、敵兵たちの頭上に叩きつける。奴らが怯んだ隙に身体強化の魔法を使い、一気に夜宵の元へ駆け寄って彼女を奪還した。


「おい! 何すんだテメー!! 俺たちに逆らうってことは、覚悟できてんだろうな!?」


 怒号が破壊し尽くされた街に響く。その声に、夜宵が震えているのが分かる。


 「あっ、ありがとうございます‥助けていただいて」


「友達なんだから、当然でしょ」


 その言葉に、夜宵は温かい笑みを浮かべる。だが、すぐにその表情は曇っていった。


 「でも‥あなただけでも逃げてください。今のあの人たちの狙いは私です。だから、私が捕まれば‥」


 目に涙を浮かべながら、言葉を紡ぐ。だが、そんなことを夜宵自身が望んでいないことくらい、馬鹿でも分かる。


 「大丈夫。絶対に助けるよ」


 「無理ですって! 相手は軍隊ですよ!? 兵器まで持ってるんですよ! 魔法をまともに習っていない中学生じゃ、どうにもなりません!」


 その言葉を背に、俺は敵軍へと足を進める。


 「たぶん大丈夫。俺は“魔法の開発者”なんだから」

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魔法が作る未来 モヤンやん @moyann

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