第4話


 後にサンゴール王家の系譜から、完全に名を消されるメリクの言葉が公に残っているものは数少ない。

 女王アミアカルバはこれには関わらず、第二王子リュティスは一切の沈黙を守り、王女ミルグレンはやがて王宮から姿を消すことになる。


 それでも数少ない、サダルメリク・オーシェの真実の言葉は後世にどこからか残ることになる。

 彼がサンゴールに存在し、確かに十七の時まで、そこにいた事実を証明するそれを目に残る形で残したのは、察するに彼の数少ない友人達だったのだろう。


 メリク自身はいずれ、サンゴールで過ごした時間でさえ自らにはいらぬものと全て投げ出し忘れることになるのだが。

 だが――、懸命に生きる今は、確かに彼は支えとなるべき友を本当に得たいと願っていたのだろう。

 後に忘れ行くことと、今得た喜びは決して一本では繋がってはいない。

 だが、この魔術学院に籍を置いた数年が無かったら、恐らく公式にサダルメリク・オーシェの存在を、後世に残す文献は存在し得なかったに違いなかった。


 イズレン・ウィルナートはメリクにとって、その一番最初の人生において、最初で最後の真の友となる。

 

 いずれ長い時が二人の記憶を分け隔ち声は届かなくなるのだが、今この瞬間の友情はまさに真実のものだった。


 後に【エデン天災】と呼ばれる暗黒時代が到来した時【封印巡礼ふういんじゅんれい】として再び歴史上に姿を現す、そのサダルメリク・オーシェの、謎めいたサンゴール時代の言動、境遇、そして真実の数少ない言葉を、後世に伝え残したのは王家の誰でもなく彼であった。



【終】

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その翡翠き彷徨い【第25話 そこに在る証】 七海ポルカ @reeeeeen13

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