消えた証拠と武勇伝

　俺が通ってた高校、いわゆるヤンキー高だったんすよ。

　入学した生徒の3割くらいが卒業せずに退学したり、捕まったりするような。

　そんな学校だから、色んな武勇伝を持ってる奴がいたんすよ。他校のヤンキー10人相手にケンカで勝ったとか、原付で首都高一周したとか、ヤクザから内定貰ったとか。

　あ、少なくとも最後のはマジだったみたいですよ。こないだ歌舞伎町でばったり会ったんで。

　で、まぁそんな感じで眉唾モンな武勇伝を語る連中が「あいつはやべぇ」って口を揃えて言うような先輩が、2つ上にいたんすよね。

“ジョーさん”ってみんなから呼ばれてるその人の武勇伝、これがまたおかしなモンで。

『幽霊を殺した事がある』っていうんですよ。

　意味わかんないっすよね。でもこれ証拠写真があるんすよ。

　ジョーさんの自撮り写真なんすけど、これ明らかに死んでるだろって感じの人が一緒に写ってて。

　首がありえない方向に曲がってるんですよ。

「肝試しに入った廃病院で襲われたから返り討ちにしてやった。当たりどころが悪かったのか、死んじまった」

　って、本人は言ってたらしいです。

　どう考えても殺人事件じゃないっすか。見た人みんなドン引きしてましたからね。

　で、誰かがジョーさんの事通報したみたいで、放課後お巡りに連れて行かれて、そのまましばらく学校に来なくなったんすよ。まぁ、元々あんまり登校してませんでしたけど。

　2.3週間くらいして、ジョーさんが学校に帰ってきました。なんでも、証拠不十分だから立件できなかった、とか。

「何故捕まらなかったんだ」と周りから聞かれて、ジョーさんはこう答えたんです。

「そりゃそうだろ、幽霊なんだから。死体が無けりゃ、犯罪にはならないらしいぞ」

　バカなヤンキーが単独で警察から死体を隠せるわけが無いじゃないっすか。

　だから俺らはみんな、信じるしかなかったんすよ、『ジョーさんは幽霊を殺した事がある』って。