統治と更生の二重奏

この作品における最大の参入障壁は、「お金を払わなければ強くなれない」という点だと思います。私自身も最初は違和感を覚えましたが、作者がこの点に気づいていないはずはなく、そこにかえって興味を惹かれました。

お金さえあれば比較的容易に強くなれる一方で、そのお金を稼ぐこと自体が至難の業です。では魔法はどのような仕組みで流通し、販売されているのか。そこが気になって、私はこの障壁を乗り越えることができました。

本作は、いわゆる「暗黒時代」と呼ばれがちな中世を、単に教会と騎士が存在するだけの、現代から切り離された舞台装置として扱っていません。政治描写も非常に丁寧で、ところどころに近代的な要素も見られ、今後は他国との外交描写にも期待したくなります。

統治が物語の主軸であるためでしょうが、税制、法制度、福祉といった要素の描写も非常に充実しており、作者はもしかして元・行政職の公務員なのではないかと思ってしまうほどです。

主人公の知識量は圧倒的ですが、領主とその娘があまりにも腐敗しているため、いわゆる「知識チート」を使っているという印象はあまり受けません。常識的な範囲でやるべきことをやっているだけなので、大きな反感を抱くことなく楽しく読むことができます。

惜しい点を挙げると、掘り下げれば面白くなりそうなエピソードが時折スキップされてしまうことです。商人の娘との交流や、あの銀髪の双子の護衛との関わりなどは、もう少し描写があってもよかったと思います。

唯一ご都合主義的だと感じたのは、あの理系の天才ですね。大きな比重を割かずに流されてはいますが、銃の改良や電気・石油を利用した技術を7歳で発明したというのは、さすがに驚異的です。これらは魔力主義の価値観を根底から揺るがしかねないものであり、本人の意思に関わらず、主人公が内乱の中心人物になるのはもはや確定ではないかと感じました。

いずれにせよ、今後の展開はまさに嵐のように荒れ狂いそうで楽しみです。ただ一つ懸念があるとすれば、性悪説をそのまま擬人化したかのようなあの銀髪の人物に主人公が情を抱くこと自体はまだ理解できますが、三桁に達しそうな連続殺人犯に恋愛感情を抱くとなれば、それは主人公の価値観次第では、決してあってはならない展開だと思います。

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