83話まではチュートリアルです。読者の皆さん、どうか頑張ってください

主人公は軽率ではなく慎重な態度を見せていますが、内面を覗くと意外と即興的な部分が多く、計画通りにいかずに苦労する姿が学生らしさをよく表しています。

全体的に物語の密度が高く、主人公格のサブキャラクターが多いため、飽きる暇がありません。戦闘や対立だけに埋没せず、世界観の魅力をしっかり描き出している点も印象的です。

伏線の配置と回収が適切で、非常に精巧に構築された物語であることがわかります。クモに転生する某作品が時折思い浮かびますが、あちらはサブキャラに割く分量が膨大で展開が遅いのに対し、この作品はそうではないため満足度が高いです。

したがって欠点は大体序盤に集中しています。勇者召喚の理由は純粋に政治的目的だけでなく軍事的目的も含まれています。しかし王国が勇者を育成する方法はあまりにも非効率的です。

その一方で主人公はあまりにも早く、とてつもなく強くなってしまい、その結果として冒険者ランクの区分は事実上意味を失いました。そして主人公より強いギルドマスターという存在は、本作のパワーバランスに疑問を抱くには十分な理由になります。さらに決闘までの展開が過度に速いため、その不自然さが悪い方向で強調されています。

賢者に関するエピソードは単に甘いと言わざるを得ません。あれほど用心深いメイドが自傷する場面を見られるというのは納得できず、賢者のエクストラスキルもこのエピソードのためだけに作られたような印象を受けます。そして経験値共有には契約書が必要なのに、正体を知られたくなかった主人公がそれをあっさり書くのも不自然です。

こうして賢者はパワーレベリングをし、与えられた力を使命感のために使い、職業が勇者である彼が言いそうな台詞を吐き、彼が遭遇しそうな危機を乗り越えます。陳腐と言えるでしょう。そしてまた奇妙なことが起こります。弱い護衛を付けて“死んで来い”と言わんばかりに送り出したのに、逆に強大になって帰ってきた賢者に対して、あの癪に障る老人が事後調査をまったく行わなかったのです。

救われた家族は主人公の家の用心棒となりますが、その後ほとんど登場せず、神獣が感知した神の欠片に関する伏線も、神獣が少し間の抜けた性格であるため、大した意味を持てなくなっています.

この作品を読んでいて、主人公以外の勇者たちの物語が少ない点に不満を覚えていたのですが、84話以降に一気に流れ出しました。細かな設定もこのあたりから多く出てきます。ですので「冬桜編は本当に必要だったのか?」という思いが強く残りました。

ああ、本当にこのエピソードさえなければ、序盤で離脱する読者を惹きつけて人気が出ただろうに! せめて順番を入れ替えていればどうだったのか!

個人的に、このクラス転移ものはサブキャラ視点も頻繁に見せて、あの葛藤と苦悩の時限爆弾がいつどこでどう爆発するのかハラハラさせるべきだと思っています。難しい話ではありますが、今後は少数に集中するより、多数を薄く頻繁に扱う方向を期待します。その多数が必ずしもトラブルを抱えている必要はありません。仲間同士の会話や、さまざまな職業の活躍などが良いのです。どこまで活かすかはともかく、大陸はあと五つも残っていますからね。

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