その後

第11話 求めた果て

 二人は、川を下りて道の駅へとたどり着く。


 流石にここでは電話が通じて、りゅうちゃんが連絡をする。

 公衆電話のボックスも珍しく建っていた。

 私は、力を使い過ぎてしまったのか頭痛がする。

 甘めのジュースを、ドキドキしながら自動販売機で購入をして、飲んでみる。


 甘くて冷たい物がすぐ買える。なんていう時代。

 この時は、まだ清の意識が勝っていた。


 だけど数日後、私は意識を美優希に戻すことになる。

 ええ。電車の乗り方から、大学での勉強。その辺りの常識が全く分からなかったのよ。

 元の美優希とは、話し合いの末。何とか納得をして貰った。

 何も知らない私は、美優希を押さえ込んでいたときに、随分と非常識に見える行動をしてしまったらしく叱られた。

 ベランダに干しただいこんも、片付けられてしまった。



 まあそれは数日後の話。


 二十分後くらいに警察はきてくれて、事情を話す。

 だけど、あんまり信用をしてくれなくって、地図を見ながらこの辺りだと教える。


 数日後、彼等の死体はおろか、キャリーカートに入った荷物も見つからなかったようだ。話によると、村などはなく。私たちの言う跡地は、すでに森に返っていたとのこと。


 あの時見て、そう…… 口にした食べ物は一体何だったのかと、彼の方が少し気にして食が細くなって困った。

 そう、魚の塩焼き以外は、あれはすべて幻。

 男の子の方が、暗示によるダメージが大きくて、気を失ってしまった。


 彼等や荷物があるのは、少しズレたところだから、警察さんは見つけられなかったのね。本当に行ったのなら……



 私は、彼と暮らせて、いま幸せ。




 ―― 明治から昭和にかけて、その地を再び開墾をしようと話が出た。

 だが、その地に足を踏み入れた者達は、悪夢を見て、気が狂い、殺し合った。

 そのため、この地に住む悪霊を封じたという記録が残っていた。

 そんないわくが、村の記録として残っているのだが、今となっては誰も知らないようだ。


 そう、この地は、人が踏み込むのを嫌がった清が悪さをして、禁足地となっていた。


 ある日、そこを封じていた寺の封じの石碑がまっ二つに割れて、住職が変死していたそうだ。

 彼等の行方不明事件は、ニュースにもなった。そのため檀家では、悪霊が放たれたのではと噂が立った。




 警察から、後日連絡が来て、何も発見されなかったという事実? が告げられたのだが、その報告は俺達だけではなく、皆のご両親へも入った。


 その後、俺達の証言があるのに、いつの間にか警察は失踪として処理がされて、事件では無くなっていた。あの後、蛇川のご両親達とあの村へ向けて行くと、裏谷のキャンプ場から先へ行くための道が無くなっていた。

 物理的に……


 そう路面そのものが谷へと崩落をして、道が本当になくなっていた。

 谷を行かないと上流へと進めない。


 当然御家族などは諦めきれず、俺達は、登山装備をしてから向かってみた。


 女性組はすぐにリタイア。

 俺達男組が谷を登ったのだが、台風の記憶も無いが、切り立った岩がたちはばかりなかなか進めない。

 何とか、あの分岐へとやって来た。

 だが、驚くことに、コンクリートの橋も川に落ちていた。


 そこから、俺達は村へと向かう枝川へと入る。


 だがその時だ、頭の中に声が響く。


「来るな。近寄ってはいけない」

 そんな声が響いた。


 俺達は、各家のお父さんと顔を見合わせる。

 霊感が無いんだと言っていた岩瀬さんですら、顔を青くして周りを見回している。

 奇妙な事に、娘の名前を呼びながら。


 お父さん達には、家族の声が聞こえたのだろうか?


 その場でしばし過ごした後、彼たちは、帰ろうと結論付ける。


「捜索はどうする?」

「娘が来るなと言うんだ」

「私は息子が言っていた」

 親父さんたちの顔は心持ち青い。

 おれは、ハンドヘルドGPSの軌跡を地図情報で確認をすると、谷の入り口で切れていた。


 思い返せば、あの時。行きにはすぐ、村へと到着をした。

 なのに帰りは、何時間も谷を歩いたし、その前。

 向こう側から、草だらけの道へ入ると、なぜか元へ戻ってしまった。


 そうだよ、あそこは何もかもがおかしかった。

 たまたまこちら側へ帰ってこられたのだが、もしかすると、警官達も帰ってこられなかったのでは? そう、男子を呼びに戻ったあの時も、美優希は戻れずにイラッとしていた。


 警察署の雰囲気は、そう言えば異常だった。

 もうその話しはしたくないという感じで、遺留物や遺体は無かったから。

 そんな感じで、話をぶった切られて追い返されたのだ。


 それから、俺達は谷を下り、昼前にはキャンプ場へとたどり着く。

 各家の奥さん達も最初は何か言っていたが、「じゃあお前が行けよ」そんな声が聞こえると、すぐにおとなしくなった。


 男でしょ。その位でやめるなんてとか、聞こえていたのに……


「たどり着けなかったの?」

 美優希がお茶を持ってくる。

「ああ」

「残念ね。でもあそこに行って、また帰ってこられるのかなぁ?」

 そう言って彼女は、不安そうな顔をする。

「さあ。俺もそれを思った」


 なんとなく帰りに精進落としではないが、生臭物を食いに店に寄る。

 最近、美優希はクルクル回る寿司にハマっている。

 そう、あれから後、色々な物を食べられるようになって、人が触れた麺でも大丈夫になったようだ。一応常識の範囲内でだが。


 そして…… まあ嬉しいことだが、前より甘えんぼで、積極的になった。


「りゅーちゃん。わたし幸せ」

「そうか」


 彼の知らない日課。

 彼は夜中に、彼女に向けて報告をしていることを知らない。

 昼間誰と知りあって、どんな話をしたのか。

 彼女の力なのだろう。


 あの事件の前に発現をしていれば、あの惨劇はなかったのかもしれない。


「りゅーちゃん。浮気はしないでね」

「分かっているよ」

 そう言って、甘えながらじゃれついてくる。


 抱き合い、耳元で囁かれる言葉。

「浮気すると、殺しちゃうかも……」

 そう言って、彼の首筋にキスをする。

 彼には見えないが、彼女は怪しい微笑みを浮かべながら……




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 お読みくださり、ありがとうございます。


 ホラーというよりは、SFかローファンタジーとなってしまいました。

 理不尽な怖さと思ってプロットを書いたのですが、最後はリアルな怖さで終わってしまいました。


 自分が知らない間に、奥さんに包み隠さず報告をしている。

 怖いですねぇ。

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愛する人を求めた果てに…… 久遠 れんり @recmiya

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