出芽

拝読しましてから半年が過ぎまして、漸くレビューを書くことができました。
レビュータイトルとさせて頂きました、『たんたんと、たんたんと。』

母親と主人公に、静かに近付いてくるものは、なにか。
『芽』というお題をこれほどまでに静かに、冷徹に描くことができるのかと初読の際に衝撃を受けました。

作者様の紹介文をご覧になられました上でご一読を頂けましたら幸いでございます。
深く、静かに。
お勧め申し上げます。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（338文字）

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（262文字）

本当に創作だろうか、作者本人の実体験じゃなかろうか。「芽」、老母と子どもたちの比喩なんですが、その描写が、恐ろしくリアルで生々しいです。この作者さんの作品は、時々読んでいますが、この作品で、なにか、新しい境地を開いたんじゃないでしょうか。

　この作者独特の文体が確立されていて、読んでいて引き込まれました。
　作品に引き込まれたというよりも、この作者が作り出す話の流れ方や表現にです。
　読んでいて、突出して光るものを作者は持っていると感じ、他の作品も読みたいと思いました。

「芽」という単語を本文中に必ず入れよとのレギュレーションに従って書かれた短編であるが、5,472字という短い字数によって描写される、子供から見た母親の変容に、私は4年前の春の彼岸に亡くなった実母を思い出した。また、冒頭、変わり果てた母親の肉体に主人公が感ずる「無邪気な」ある感覚を、私も感じてぞくりとしたことがある。

本作を読んで「芽」が持つ暗い側面が頭に浮かびました。「芽」に対して、これから成長していく希望に溢れた様子をイメージする方は多いでしょう。しかし「芽」は成長するために地面に根を張り、地中の栄養を吸い取りまくります。動物の死骸などがあれば、そこに根を張ることも。やってることは、なかなかダークじゃないかなと思うのです。

そして「芽」は、地中にだけできるものではありません。私たちの体の中にも…
なんて、ちょっと残酷なレビューになってしまいましたが、本作はただ「怖い作品」というわけではなく、強いメッセージが込められている作品です。
でも、なぜでしょう。私の頭には「体の中の芽」が頭に残りました。まさか…続きを読む

老疾の母親の身体を健気に洗う主人公・酉子。比較的静的な描写に支えられながらその行為を通じて病魔の芽を目の当たりにする、写実的で実に生々しい話だ。
多くは発芽というワードにポジティブな印象を抱くのだが、本作では病理的に息衝いたネガティブな存在として描かれている点が特徴的だ。それは生体内の奥深くに根を張り、芽を出し、開花し、播種への連鎖となりゆく――すなわち栄養のある環境下で蔓延る無限の営みとして、捉えることができるかもしれない。

注目したいのは動と静の対比描写だ。
正常な細胞は活動的で快活の人生を謳歌し、腫瘍細胞へ変異してからは痩せ衰えた憔悴の姿を克明に描く。これらは元は同じ細胞であり、同じ…続きを読む