本作を読んで「芽」が持つ暗い側面が頭に浮かびました。「芽」に対して、これから成長していく希望に溢れた様子をイメージする方は多いでしょう。しかし「芽」は成長するために地面に根を張り、地中の栄養を吸い取りまくります。動物の死骸などがあれば、そこに根を張ることも。やってることは、なかなかダークじゃないかなと思うのです。
そして「芽」は、地中にだけできるものではありません。私たちの体の中にも…
なんて、ちょっと残酷なレビューになってしまいましたが、本作はただ「怖い作品」というわけではなく、強いメッセージが込められている作品です。
でも、なぜでしょう。私の頭には「体の中の芽」が頭に残りました。まさか私の中にも「芽」が…?
老疾の母親の身体を健気に洗う主人公・酉子。比較的静的な描写に支えられながらその行為を通じて病魔の芽を目の当たりにする、写実的で実に生々しい話だ。
多くは発芽というワードにポジティブな印象を抱くのだが、本作では病理的に息衝いたネガティブな存在として描かれている点が特徴的だ。それは生体内の奥深くに根を張り、芽を出し、開花し、播種への連鎖となりゆく――すなわち栄養のある環境下で蔓延る無限の営みとして、捉えることができるかもしれない。
注目したいのは動と静の対比描写だ。
正常な細胞は活動的で快活の人生を謳歌し、腫瘍細胞へ変異してからは痩せ衰えた憔悴の姿を克明に描く。これらは元は同じ細胞であり、同じ母親であるからこそ映えるというもの。
また、登場する幼児の子どももさりげなく暗示をかけている意味深な描写も見逃せない。
やはり本作も五感に訴える筆致の数々が感覚に悩ましい。
皮肉かな、身体に棲まう芽は無情にも精に満ちている。