第7話 繰り返す。

目が覚める。時刻19時。昨日今日と学校には行かなかった。合わせる顔がなかった。仮病を使って学校をサボるのなんて中学ぶりだ。近々に起きている怪事件の真相がわかった。この二日間で考えをまとめ、三時間後の審判に準備をしていた。休んでる間もA子からの催促は朝と夜に2回ずつ送られてきている。昼に来ないのはA子が学生であることを仄めかしている。部屋のハンガーラックにかけられた紺のサーマルシャツに袖を通し、ズボンは薄手のカーゴパンツを履く。今日の夜は夏真っ盛りだが、予報だと冷えるらしい。玄関に向かい、二重ロックの扉を開ける。上下のサムターン鍵を回し外に出た。

「少し早いが、まぁいいか。」

両親は共働きなため、まだ帰っていない。両親が帰ってくる前にケリをつけれたらいいと思った。学校の最寄り駅に着き、呼び出されたであろう高架下方面へ歩みを進める。一歩一歩が重く、接着剤が靴についているような錯覚を覚えた。目的地はガード下。ではなくその向かいにある、一棟のマンションだ。そこは7階建ての集合住宅で、全部屋の入り口がガード下方向へと向いている。ガード下に直接行くと危険だと考え、こっちを目的地にした。その理由もすぐ分かる。時刻は21時30分。マンションの低い塀を乗り越え不法に侵入する。エレベーターに入り、R のボタンを押して屋上へ上がった。善一は、犯人はこの屋上から自分を傍観するであろうと当たりをつけてた。

屋上階につき扉が開く。

「ですよね。」

「は、、なんでこっちに来たんだ。」

「A子が俺にしたいのはおそらく復讐。では、直接会っても何も成し得ない、何かのトラップがあそこにあるのは明白です。かつ、そのトラップに引っかかった俺を遠くから眺めようとする心理が働くと、僕は考えた。最適な場所がここなんだよ。質問は終わりか。」

「天台くん」

「礼太」

「蘇我さん。」

「物部さん。」

「それと、ここにはいないけど、誠子さんもかな。」

エレベーターの入り口から向かい側の屋上柵の縁に四人は立っていた。

「いつから気づいてたんだ!。」

天台西太が声を荒げ叫ぶ。

「つい最近だよ。思い出したんです。天台くん、珍しい苗字だけど聞き覚えがあった。君のお父さんとは過去に一度話したことがありました。でも、やっぱりそうか。」

「あぁそうだよ死んだよ。父さんは自殺した。警察から事情は聞いたよ。浮気に詐欺、犯罪に手を染めてた。負い目から命を絶ったって聞いた。でも違った。お前が強請りをして精神的に追い込んだんだな。父さんのパソコンは警察に渡る段階で初期化されていて、情報がなかったみたいだったスマホもだ。けど、父さんのインスタのアカウントだけは生きてた。俺は父さんを信じて、真相を知りたくて、一年調べた末に見つけたんだ。そこでお前のアカウントとのDMを発見した。お前が強請りや人格否定の言動を確認した。浮気も詐欺も真実だったのは悔しかったけどな。」

目には涙を浮かべ、唇は震えていた。

「最初は順調に行ってたのにな、西太。」

「そう。俺が違和感に気づき始めて、犯人を探し始めるまではだろ?いずれ見つかると考えた天台くんは蘇我さんと物部さんに助けを求めた。物部さんは写真を入手できる人間を搾らせないように誠子さんにBeRealのスクショをお願いした。だから隠していたんですね。あの時は本質を誤解していたよ。蘇我さんは自然に仲介をし、話を円滑に進めるサポートってとこかな。」

物部さんは天台くんの彼女。蘇我さんは礼太の幼馴染。こんな大概な願いも聞き入れてくるほどの仲であることは確かだ。

「そして、少しでも怪しまれないように、アリバイ工作までし始めた。A子の脅迫メッセージを利用して。E組でのメールの時は天台くんが、コンビニを出た後は礼太が、アカウントを共有してコンタクトをしてきた。それに気づいたのは天台くんが、俺に時間を聞いてきた時だ。あの時、自分のスマホを見ず、僕に聞いてきた。スマホを、礼太に貸してたからですよね。あの時の脅迫は文章でなく通話での機械音声でした。通話にしたのは、より、天台くんのアリバイを強調するためだと俺は推測しています。では、その音声はどこから流したのか。彼のスマホですよね。」

顔が熱くなり、声のトーンが上がっていくのを実感する。顔にはうっすらと笑みを浮かべているだろう。心がざわつく。高揚感に脳が浸かり始める。

「でも、この推理はまだ不十分な要素がある。礼太。なんであなたが協力しているのかです。お前が協力するから、蘇我さんも動いたとするなら、お前はなんなんだ。この疑問はコンビニでのやり取りに答えがあった。あの日、天台くんは塾があり、予定が埋まっていました。じゃああなたの予定とは一体なんだったのでしょうか。」

「もういい。はっきり言えよ。クソが。」

「天台くんから小さなひまわりを受け取り、そのまま去っていった。なぜ黄色いバラではないのか。派手だからかな。あの花は父の日だから売られていたんだ。地味だが、父を祝う意味を持つ花を持って、行く場所。お墓。それを託される関係。天台礼太。あなたの旧姓です。」

レイタは歯を食いしばるも冷静さを保って話し始めた。

「その通りだよ。俺らは兄弟。だった。親父が死んで俺は母さんのとこに、西太は父方の祖父母に引き取られた。金銭的に母さんだけじゃ厳しいからな。俺たちは、父さんを慕っていた。お前が俺らから家庭を奪った。無関係なお前が。」

蘇我と物部は徹頭徹尾、沈黙を貫き、ウレタン防水の床を眺め続けている。

「ぶっ、っくく。」

「は?」

いけない。笑っては。彼らの尊厳を壊してしまう。しかし。おかしくなるほどに愉快だった。もう我慢できない。飢えた欲望はもう止まらない。開いた口はもう閉じない。

「はははっ!笑わせないでください。客観的に見て、僕は正義で君たちは悪なんですよ。強請ってた?まさか、被害者に返金させてただけです。それがなんですか?お前のせいでって言って被害者面して復讐ですか?どこまで脳みそ花畑でいらっしゃるんですか。犬死にした父を思うのは勝手ですが、善良な僕を攻撃するのは筋違いなのでは。僕は一切犯罪行為に手を染めたことなどございません。まあ、このマンションは不法侵入でしたが。あ、高架下にどちら様かいらっしゃいましたね。まあヤクザの事務所にでも喧嘩を売って、僕にぶつけようとでもしたんですかね。それで、善良な小市民を可能性の話ですが、殺そうとまでしたあなた方は、どういった落とし前をつけるのですか。あははっ!」

高笑いをし、不適な笑顔を浮かべる善一。網にかかったのは魚でなく鷹だ。その網を爪で破る。そして、同族を墜落させるために、また、網にかかったふりをする。それが彼の捕食であるから。






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