第6話 精算

通学路から少し外れたコンビニに入店する。自動ドアを通り抜けると、入店音が鳴る。聞き慣れたものだった。店内には商品棚が三列並び、デニッシュや菓子の棚が陳列されている。入り口側の雑誌コーナーに週刊誌が積まれているのが目に留まった。西太と礼太は、レジ横にある造花コーナーに足をとめた。普通はレジ横に造花など置かれていないはずだ。珍しい経営方針をしたコンビニだと思った。最近はコンビニに足を運んでいなかったため、流行というのは日々変化するものだと、無理やり納得して2人の背後に近づいていく。彼らの背中越しに2種類の花が見えた。そこには小さなひまわりと黄色いバラが置かれている。

「ま、こっちだよな。」

「あぁ。」

淡白なやりとりをした後、西太は小さなひまわりを手に取りレジに並んだ。

「お前ら花なんか好きなのか、てか、知り合いだったのか。中学からの友達とかか?」

善一の問いかけに礼太は無言でこちらを見やり、目を細めた。何も言わなかった。触れられたくない質問だったのか、そのまま会計を終えた西太とともにコンビニを出て行ってしまった。2人が出て行った後、彼らの背中からでは詳しく見えなかった造花コーナーに視線を移す。商品名のポップアップに書かれた文字を見て、一連のやり取りに一つの仮説が立った。

「え、いや。まさか。だとしたら。でもあの時、 礼太は俺の横にいたはず...。」

俺は急いでコンビニを出た。2人は初めから一緒に帰っていたかのように、善一を置いて帰路についていた。走って彼らに追いつき、まるで影のようについて行く。

「なあ、お前らってさ、友達なんだよな。」

「善一、悪い。俺この後行くとこあるから、先行くな。」

「あ、あぁ。」

礼太はそう言って西太から小さなひまわりを受け取り、走って行ってしまった。善一と西太は2人ポツンと置いていかれ、礼太の背中を見送っていた。曲がり角を曲がり、礼太が見えなくなったところで西太が口を開ける。

「なぁお前さ。どうすんの。」

「金曜日の呼び出しのこと?それとも瑩山誠子さんのことかな。」

「まあ両方だ。」

「誠子さんのことなら、うん。来週にでも直接話してみようかな。」

「高架下の呼び出しは?」

「行くよ。そこに誠子さんがいたとしたら犯人は確定だし、なんでこんなことをしたのか聞ける。彼女と俺には接点がないはずなのに、俺のことをよく知っている。この謎を俺解きたいからね。」

「そうか。」

西太は笑った。口を幅の広いUの字にして、えくぼを作った。彼女のストーカーが捕まえられるかもしれないというのに、聞いてきたことはそれだけだった。善一のスマホがポケットの中で振動を繰り返し始める。電話だ。着信元はA子だった。善一は手に汗が滲み、すぅっと体温が下がっていくのを感じた。

「犯人から来たのか?」

「あぁ。」

相槌を打ち、恐る恐る電話に応答した。スマホからは男性の機械音で声が聞こえる。

「お前のせいで私は死んだ。必ず例の場所に来い。そこで報いを清算させる。」

ここまできたら、何かのドッキリだと思いたい。しかし、そうは思えない理由が善一にはある。

「結から言って、恐怖だな。」

西太が呟き、歩みを進めた。

「俺もこの後、塾行く予定あるから、急ぐわ。今何時?」

「17時ちょうど...。」

「サンキュ、じゃあな。」

善一を置いて、足早に行ってしまった。1人になった善一は立ちほうけていた。考えがまとまらないまま思考の網を一点にたぐりよせていく。気づけば家についていた。玄関に上がり、ローファーを脱ぎ、廊下の突き当たりにある脱衣所に寄る。制服を洗濯かごに入れ、来た廊下を引き返し、自室に入る。帰る頃には外はとっくに日を落とし、薄暗くなっている。部屋の窓からは街灯の光が鈍く忍び込み、勉強机を照らしていた。善一はその机に向かい、親から与えられたノートパソコンを起動させた。中学入学時に、父親から譲り受けたものだった。善一は幼少期から父と会話をあまり交わさなかった。仕事が忙しく、家をほぼ毎日空けているからだ。しかし、家族のために働く父を彼は尊敬していた。起動したパソコンには、ゲームや検索エンジン、中学の時に作った黒歴史なファイルが並んでいる。戒めに残しておいたファイル。このファイルの内容はいったってシンプルだ。1人の男のプロファイリング情報。なぜこんなものがあるのか。なぜなら、この男の悪事を暴き、虚栄心と自己肯定という火を燃やす薪にしようとしたからだ。その結果、

“道元善一は過去、間接的に人を殺した。”

「A子の言ってたことは十中八九このことだ。つまり、A子はこの男の子供だ。」

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