古語テストの範囲で小説書いてみた。
月見だんご
第1話
冷たい風が吹く。
日はとうの昔に暮れ、辺りには闇が広がっている。
「ワシの懐に潜んでいたとは、さぞかし、こざかしい真似をしてくれるなあ小僧。」
「賢い、と言っていただきたい。」
古めかしい日本家屋の庭。
老人と少年がにらみ合っていた。
少年がこめかみを伝う汗を拭う。
庭には人がまばらに倒れている。
「しかし、気が利いているものだ。こんな小童をよこすなんて。年寄りにはこのくらいが丁度いいということか。なめられたもんだ。」
「なめているのはあなたの方だ。あまり油断しない方がいい。」
「なあに、年も十五、六の小童だ。経験値の差が違う。」
老人がふと辺りを見渡す。
「しかし、一対三十の攻防で打ち勝ったところを見れば、そこでノビているワシの護衛よりは実力があるようじゃな。大抵、おまえのような小童はこの状況で気をしっかり保つことすら難しいじゃろう。」
老人がズルリと舌なめずりをした。
「だが、調子にのるなよ?」
老人が懐に手を寄せる。
その瞬間、少年が鞘に手をかけ、銀色に光るそれ、を勢いよく引き出した。
「真剣か。」
「ええ。きれいでしょう?」
「ふっ、最近の若者は変なものに、好色めいておるな。」
「人には好き好きがあるものだ。風流だと言っていただきたい。」
少年が駆け出す。
風がふいた。
空を覆っていた雲が動き出す。
月明りが漏れた。
青白い光を反射させ、剣がなまめかしく光る。
月夜に宙を舞う少年は実に優美であった。
「おろかだ。古風なものにいつまでこだわっていれば、命をなくす。わしが持つのはおまえに比べていまめかしい現代風だ。威力も音も容姿もこちらのほうが華やか。おまえに勝ち目はない。」
老人が転がった人の山を足で、おしてどける。
そして、懐から見せびらかすように拳銃を取り出した。
少年はそれを一瞥した。
少年の目に恐怖の色はなく、しんぱいする素振りもない。
老人があきれたように笑った。
次の瞬間、
老人の手から銃弾が放たれる。
少年が無造作にそれをよけた。
少年が剣を振り上げる。
老人の銃口が少年をとらえる。
「乱れている」
少年は思った。
銃口を持つ手が乱れている。
再び老人の手から銃弾が放たれた。
少年にはかすりもせず、明後日の方向に飛んでいく。
「どうしてだ…?」
老人の乾いた声が聞こえる。
つき明りが少年の頬を照らした。
斬撃音。
少年が地面に着地する。
老人の体にヅキっと痛みが走った。
老人が最後の足掻きとでも言うように銃口を少年に向ける。
めまいがし、足がガクガク震えた。
銃口を持つ手がさだまらない。
老人は次の一手で決まるであろう死が喉元にせまってきているような気がした。
老人が標的を見る。
美しかった。
青白い月明りがあふれる日本庭園と剣の少年は実に似つかわしく好ましかった
農民から、金持ちになり、護衛をつけるような役人にのぼりつめた老人にとっては、
ここしばらく、感じることができなかった美。
生死を決める戦いで金という概念がなくなった今、
その美しさが嫌に目に残り、
そして、どこかなつかしく感じられた。
ぽとりと拳銃が地面に落ちた。
老人が崩れ落ちる。
少年が剣を持ち、老人に近づく。
老人は腰がぬけてしまったのか、無様にずりずりと後退する。
「目安として十分くらいかかった。」
少年が辺りに散らばった護衛と、空を見比べながら言う。
「やめて…やめて…命、命だけは…」
老人が泣き叫ぶ。
少年がため息をついた。
「さっきまでの威勢はどうした?せめて黙っていた方が見苦しくなかったのに。」
「お願い…お願いします…命は…」
老人は懇願し続ける。
少年がまたもやため息をついた。
「安心しろ。僕はあなたを殺すつもりはない。」
少年が刀を鞘に納める。
「ほら、これで気楽だろう。」
老人がごくりと唾をのみ、言葉をのんだ。
ひとまず、心を休めたようだ
「これは危ないので没収させていただく。」
少年がそばに落ちていた拳銃を拾い上げる。
老人はうしろめたそうにそれを見たが、
観念したのか、何も言わずに、視線を下げた。
「この事件の裏金問題にかかわっていたのはあなたでまちがいないな?」
少年が懐から古びた新聞を取り出した。
老人の顔が硬直する。
「その顔は、当たり、ということで。」
老人が慌てて口を開く。
しかし、少年がそれを遮った。
「心配するな。証拠は僕がしっかりおさえた。もうじき迎えが来る。」
老人が言葉にならない悲鳴を上げる。
背後から数人の少しずつ足音が近づいて来るのがわかる。
「僕の仕事はここまでだ。」
少年が新聞を懐にしまい、庭に面している日本家屋の壁を蹴って、屋根によじ登る。
「ま、待て!おまえ、どこまで知っている…?」
老人が震える声で問いただす。
月明りの下、少年が振り返った。
「さあ、僕は頼まれただけだ。」
トン
と軽い着地音がする。
軽い足音が聞こえ、それがだんだんと遠ざかっていく。
老人の背後からは数人の人の気配が色濃くなっていく。
気づけば、月明かりが薄れ、黒い雲が月を覆っていた。
・・
今回の古語テスト範囲
・さかし…かしこい、気が利いている、気がしっかりしている、こざかしい
・すきずきし…好色めいている、風流だ
・なまめかし…優美だ
・いまめかし…現代風だ、華やかだ
・しどけなし…無造作だ、乱れている
・つきづきし…似つかわしい
・なつかし…好ましい
・めやすし…見苦しくない
・こころやすし…安心だ、気楽だ
・うしろめたし…心配だ
古語テストの範囲で小説書いてみた。 月見だんご @tukimidanngo37110
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