刹那の中に永遠の魅了がある

 主人公の〝私〟が彼氏と一緒にいる夜のこと、ビルの上に何かを見る。
 当然、肉眼ではよく分からないはずなんです。ほとんど影でしょうから。

 でも、彼女はまるでそばに寄ったかが如く、微に入り細に入り、背中の形状、爪の先、眼の色からなにからなにまで、詳細に語りつくす。

 刹那の間に彼女はそれと溶け合うほどの距離となり、永遠に感じるほどの刻をかけてそれを見て、帰ってきた。刹那に。だからこそ、執着が生まれる、魅入ってしまう。

〝魔に魅入られる、魅入る〟というのは、こういうことなのかもしれないな……そう思わせる短編でした。