心の渋滞を、BARとドリンクで洗い流す――

ふとした夜にたどり着く小さなBAR「The Tale’s End」
訪れた客の心を洗い流す短編集です。
各エピソードでは、それぞれが苦悩や葛藤、見栄や願望、疲弊といった悩みをもっています。それは、自分の強さでもあると同時に、自身を縛る枷でもあります。

なかでも印象的なのは、第4話「静かな夜の証明」に登場する八神という人物でした。
誰よりも頼られ、完璧を求められる彼。
けれどその裏では、誰にも見せられない息苦しさを抱えている。
そんな彼が、バーで出されたカクテルとマスターとの最小限のやりとりで、自分自身の声を取り戻していく描写が繊細です。

仮面を外せる場所が日常にはなかなか存在しないからこそ、この物語に描かれるしっとりした雰囲気は、読者にもほんのり酔わせてきます。

あなたにも、きっと、お気に入りの一編が見つかるはずです。

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