言葉が紡ぐ、心の灯火

初めて自分の本が書店に並んだ喜びと、その後のふとした寂寥感。そんな特別な夜に出会った不思議なバー「The Tale’s End」。琥珀色の光、ジャズの音色、そして言葉がカクテルに変わるという神秘的な空間描写に、読者は瞬く間に物語の中へと引き込まれます。

寡黙ながらも温かいマスターとの出会い、そして彼の差し出すオールド・ファッションド。そのカクテル言葉「わが道を行く」が、主人公の心にそっと語りかけます。言葉にならない感情を吸い上げ、光の文字として本に綴る不思議なペン。書くことで心が解放され、自身の物語が店の本棚に大切に収められるという体験は、まさに言葉が形となり、誰かの心に残る灯火となることの象徴でしょう。

時間表示のない振り子時計や、物語を書き終えると現れる自分の名前が刻まれた本など、幻想的な要素が散りばめられ、日常と非日常の境界線が曖昧になる感覚を覚えます。読後には、自身の言葉や物語もまた、誰かの心に寄り添う力を持つかもしれない、という温かい余韻が残ります。

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