第14話 拾壱

 

 牢番が動かなくなって


 少し、時間が経ったろうか。



 さっきまでオレに関心を向けていてくれた人は、もう動かない。



 そうか、


 また、オレとは関係のない人になっちゃったんだな。




 ちょっと悲しくなって


 ふと、周りを見渡した。



 そこには、


 さっきまでのオレと同じように、両手両足を鎖で縛られた子供たちが居た。



 その目は、オレを恐ろしいもののように見ている。


 今思えば、この子たちはさっきオレが牢番を蹴り殺したところを見ていたのだろう。



 はたから見たら、オレは大の大人を蹴り殺した子供だ。


 怖くないはずはなかっただろう。


 だからこそ、感謝する。


 その時の、狂った幼児退行したオレを正気に戻してくれたみんなに。




 あの時のオレは、怯えながらもオレのことを見てくれた子供たちの目が嬉しかったのだろう。


 オレという存在に関心を向けてくれているその目が。


 だから、オレは狂った頭で考えていた。



 さっきの牢番は、さらなるお返しをしようとしたらすでに動かなくなっていた。


 だったら、


 この子たちにもお返しをしなくちゃって考えたんだと思う。



 なにをお返しすればいいんだろう?




 さっきは、暴力を加えて来てくれた牢番に暴力のお返しをした。


 そしたら、動かなくなっちゃったんだっけか。


 すこしたくさん返し過ぎてしまったから失敗したんだな。


 すこし、間違っちゃったみたいだ。

 


 だったら、こんどはもうちょっとうまくやろう。


 この子たちには、どんなお返しをすればいいんだろう?


 さっきみたいに蹴とばせばいいのかな?


 でも、それで間違って失敗して牢番さんは動かなくなっちゃった。


 たしか、してもらったことと同じことを、たくさんにしないようにお返しすればいいんだっけか。


 みんな、こちを見ている。


 だったら、オレも見つめ返そう。



 あ、でも、


 オレはさっき鎖をほどいたけど、


 この子たちはまだ鎖が巻きついている。


 それも、同じにした方がいいのかな?


 そう思って、オレはみんなの鎖を引きちぎった。




 鎖の取れたみんなは、今度は不思議そうな顔でオレを見つめる。


 みると、みんな身体のどこかにケガをしてるようだ。


 そういえば、オレはさっき回復の魔力を使って牢番に蹴られたケガを治したんだっけ。


 じゃあ、オレと同じようにみんなの怪我も回復したほうがいいのかな?


 そう思って、オレはみんなに回復の魔力を使った。




 これで、お返しできたかな?


 でも、みんなはまだオレの方を見てくれている。


 まだ何かお返しできることあったかな?



 そう思ってみんなを見つめ返した時だったな。







「ありがとう」








 あ、り、が、と、う


 ありがとう?


 アリガトウ?




 ありがとうって、なんだっけ?


 そうか、思い出した。


 たしか、感謝で、お礼の言葉だったはずだ。



 感謝?


 カンシャ?



 そうだ。


 感謝だ。



 この時、オレは我に返った。


 幼児退行で狂った認識が、元に戻る。


 そうだ。


 オレはトキオであり


 空石時生だ。



 日本で生まれ育った


 37歳の大人の男性だ。


 今は10歳未満の未熟な体をしているが、


 中身は分別のある大人だった。




 改めて、目の前の光景を眺めてみた。


 そこに居た子供たちは――



 どう考えても、この準男爵家に囚われ、欲望のはけ口にされていた子供達だった。




 あぶなかった。


 オレが我に返っていなければ。



 この子供たちをさらに傷つけてしまっていたかもしれない。


 よかった。


 我に返れて。


 

 そして、


 この子らの言葉が


 若くなった肉体に引っ張られて幼児退行し


 過去の対人関係でのトラウマで狂わされていた平常の感覚を取り戻させてくれて



 オレを我に返してくれた。




 ありがとう。


 本当に、ありがとう。



 オレは、救われた。


 ならば、



 今度は、オレがこの子たちを救う番だ。




◇ ◇ ◇ ◇



 オレに鎖と共にはめられていた手枷足枷。


 鎖の壊れたそれらに魔力を通してみると、粉々に砕け散る。


 多分、これは魔力の錬成を抑える魔道具のようなものなのだろう。


 だから、オレは一時魔力を練れなくなっていた。


 でも、どうもこれはあまり性能がよろしくない様だ。


 その証拠に、オレの多量の魔力を流せばあっという間に砕け散ったのだから。




 囚われていた子供たちに向かい合う。


 鎖はさっき引きちぎったが、まだ手枷や足枷は付いたままだ。


 オレはそれらに魔力を込めて破壊する。






 ――さて。


 


 ここに来た本来の目的は、サナを辱め苦しめた貴族をぶっ殺すことだったが、その前に足枷が増えてしまった。


 それは、助け出してしまった子供達だ。


 助けてしまった以上、このまま放置とはいかないだろう。


 放置すれば、また捕まり、痛めつけられ、売られるだけだ。

 

 






 

 

 




 

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二度寝が誘う時空螺旋 桐嶋紀 @kirikirisrusu

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