隙間

日野球磨

隙間


 狭い場所って落ち着きません?


 下校してる時のことなんですけどね。

 ふと住宅街に並んでる石塀の間に隙間を見つけたんですよ。

 指が一本入るかどうかってぐらいの隙間でして……ああ、指は入れてませんよ。だってもし指を入れて、抜けなくなったりしたら怖いじゃないですか。だから指を入れたりとかはしてないんですけどね。

 でも、ちょこっと覗くぐらいは、別に問題ないかなって。

 そう思って、覗いたんですよ。

 そしたら、目が合いまして。

 はい、目が合ったんですよ。なにと、って言われるとわかりませんけど、黒い目がこっちを見てたんです。

 空はまだ明るい時間です。でも、太陽が傾いていたせいで、石塀の中に明かりは届いていなくて、真っ暗でした。

 だからもしかしたら、その目は黒じゃなくて、もっと違った色だったかもしれません。

 最初に見たときは、石塀の隙間の向こう側の人と目が合ったんだと思いました。

 けど、ちょっとおかしいんですよ。

 目との距離はたぶん、二メートルぐらい先、ですかね。隙間を作ってる石塀の高さは、一メートルと八十センチぐらいで、その目は大体、一メートル二十センチ? ぐらいの高さにあったと思います。

 それで、隙間のある石塀って、綺麗に整理された住宅区画の、真四角に区切った敷地を、パズルのピースみたいにきっちり合わせた間にできたモノなんで。

 だからまず、二メートル先って人さまの土地じゃないですか。それにそこは、ただの壁と壁の間じゃなくて、石塀と石塀の間です。当然、家の敷地分だけ、隙間は隙間として続いているんですよ。

 だから多分、二メートルどころか、十メートルは先まで家と家を区切る石塀が続いていて、その目はその中にあるわけです。

 それにもしもこの隙間が壁に空いた隙間だとして、その目が壁一枚隔てて私と目が合っただけだとしても、暗すぎるんですよ、隙間が。

 隙間の中には、外から差し込む光だけを反射する瞳しか見えませんでしたから。

 だから多分、あそこは隙間だと思うんですよ。

 指一本分の、家と家の間にできた。

 少しだけの。

 ほんのわずかな。

 隙間――


「入ってます」


 そんな声が聞こえてきた時、すぐに私は身を翻して逃げ出しました。見ちゃいけないようなものを見たの気がしたので。

 でも、思うんですよね。

 ほら、狭い場所って落ち着きません?

 パーソナルスペース、でしたっけ。外敵が近寄らないという確信がある自分だけの空間。自己完結した、自分だけの居場所。

 誰にも立ち入れない場所って、安心するんですよ。

 でも普通は入りませんよね。

 だって入れたら、抜けなくなりそうで怖いじゃないですか。

 でも私、少しだけ思うんですよ。

 怖いから入るのに。

 そこから抜け出す必要なんて、ないじゃないですか。

 

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