息苦しい日常から立ち上がるためのホラー……。

 一章まで読みました。
 この作品は、日常の息苦しさを丁寧に積み重ねることで読者の心を掴む、文学的な深みを持った作品だと感じました。
 息苦しい、痛々しい、生々しい。その中にあるリアリティは、読者の心をつかんで離さないでしょう。
 最大の魅力は「人が消えると記憶からも消える」という設定を背景に、少女の過酷な日常を描いた世界観です。
 派手な事件ではなく、鍵の締め出し、空腹、孤立感といった「毎日の不快の積み重ね」でどんどん少女の気持ちに立って考えてしまいます。
 一人称の短文と浅い呼吸のリズムで綴られる文体によって、主人公の息苦しさをそのまま追体験させられます。

 近所のばぁちゃんとの小さな交流が差し込む「かすかな光」の描写も心に残り、絶望一辺倒ではない微細な希望の配置がまた憎い。その温かさが、きっと生への執着に繋がるんだろうなと思います。

 象徴的なイメージと伏線の配置も見事で、第一章の段階で既に「忘却=社会的死」「記憶=存在証明」というテーマの輪郭が浮かび上がっています。
 日常と非日常の境界線がきしみ始める緊張感は、静かながら強烈な読書体験を生み出します。

文学的ホラー好き、心理描写重視の方、そして社会の見えない暴力と個人の尊厳について深く考えたい方には絶対におすすめ。静謐でありながら心の奥深くに響く、忘れられない読書体験でした。

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