隅田天美の回顧録 40度の熱が出たよ編
隅田 天美
健康って素晴らしい!
今から少し前。
コロナウィルスという未知のウィルスに日本どころか世界中の人々が右往左往して少したって世の中が少し落ち着いたときの話だ。
1
その日は後輩の一人と駅ナカの饂飩屋で饂飩を食していた。
馬鹿な話をしていると後輩が私の顔を見た。
「先輩」
「どった?(どうした?)」
「顔、赤いですよ」
後輩とはいえ、異性である。
顔を近づけられれば四十路の女でもテレはある。
「そりゃ、私は自分で発熱できるから……」
「武道か何かやっていたんですか?」
「単に保温性がいいみたい。温かい飲み物を飲んだり、暖房の効いた部屋にいれば血流が良くなるからねぇ」
「へぇ」
思えば、この時、熱でも計って薬を飲んで寝ていればよかった。
2
次の日は心の病院とジムに行った。
心の病院でこれからの相談をしていると担当医が私を見た。
「隅田さん」
「はい?」
「普段より顔が赤いねぇ。熱でも計る?」
「いや、それ、後輩にも言われましたけど、単にエアコンが効いているんですよ」
「そうかい? 風邪気味ならこっちでも処方できるけど、どうする?」
「大丈夫っす。体も動けるし、これからジムにも行けます」
約二時間後。
私はスポーツジムで汗を流した。
思えば、ここで医師の言葉を素直に聞いて休んでいればよかった。
3
目が覚めた時から、体が重い。
トイレに行くのさえ億劫でご飯を食べる気力すらない。
こういう時には私の体を長年見てきた母に電話をする。
母の言葉はこうだ。
「お前は、常に無理をする傾向がある。こういう時は、無理に動いたり食べたりしないで薬を飲んで寝なさい」
ここまでは、四十代になって結構あることなのだ。
確かに、昔から私は限界まで働く昭和魂があって寝込むことがある。
でも、それは一日薬を飲んで寝れば治るものだった。
が。
4
「ぎゃあああああ!」
目覚めは突然、全身からの痛覚で否応なくだった。
全部の関節が激痛を訴える。
幸い、会社に行く準備はできている。
激痛で涙がポロポロできるのに、当時の私は色々な
あって、「午前中で早退」というもの。
でも、体は正直で手短にあるスマートフォンに手を伸ばした。
母に事のありさまを話した。
「体が痛いだけで、吐き気も、たぶん、熱もないし……」
『馬鹿! その状態だけでも休みなさい! これはお前のためでもあるけど、会社のためよ!』
半ば押し切られるように私は有休を使うように母に命令された。
渋々、体の痛みを堪えつつ会社に電話した。
「おはようございます。隅田です」
『おはようございます……隅田さん、どうしたの?』
「本日体調不良で、有休を使いたいのですが……」
『分かりました……こちらで処理しますね……できれば、本社の命令で体調不良なら体温教えてほしいんだけど、近くに体温計は?』
「あります……ちょっと待ってください……」
私はわきの下に体温計をはさみ、三十秒ほど待った。
体温計が鳴り、デジタル表示を見た時。
思わず、半笑いになった。
「体温出ました、四十度です」
『よんじゅうど!? 休みなさい! あと、治ったら直接会社ではなく、お医者さんに行って診断書をもらってきなさい!』
「はい」
電話を切ると、私は泣きに泣いた。
心も体も痛い。
休んだ罪悪感や体をむしばむ痛みが涙になる。
どれほど泣き疲れて寝たのだろう?
体の色々な場所を色々な手が撫でたり擦る。
--大丈夫、大丈夫
頭に妙に冷たい骨ばった手が撫でていた。
その優しさに私は再び深く眠った。
5
翌日。
きれいさっぱり目覚めた。
痛みも熱もない。
けれども、コロナの影響もあり、この日も有休を使い、指定病院に行き、血液検査などをやった結果。
看護師に従って医師と面談すると、開口一番、老いた医師はこう言った。
「何で、もっと早く来なかったの?」
「は?」
「君ね、コロナじゃなくてインフルエンザ。それも、回復期。自分たちができることはないよ。投薬の必要もない」
この結果を職場へ電話で伝えると出た上司が茫然としているのが手に取るように分かった。
余談
亡くなった友人曰く、私を癒した(?)手は大好きな作家の霊だろうとのこと。
「だって、優しい隅田さんがピンチなんだもん。助けたくもなるよ」とのこと。
余談2
今思えば、ジムの人で感染した人が出なかったの奇跡!
隅田天美の回顧録 40度の熱が出たよ編 隅田 天美 @sumida-amami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます