くだらない話

白川津 中々

◾️

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


いや、もしかしたら10回目か、11回目だったかもしれないし、あるいは9回、8回目だった可能性もある。なにしろ夢の話だ。仔細が曖昧となるのも致し方ないだろう。意識が混濁とした状態で正確な回数を覚えていられる方が稀ではないか。それでいうと覚えていないだけで100回、1000回見ているかもしれない。夢なんてものは起きると大概忘れてしまうもの。いつか見たあの夢の正確な回数を俺はまだ知らないのではないだろうか。いや、いやいや、更に考えを飛躍させるのであれば、あの夢など一度見たことがないという仮定も立ち得る。夢を9回見た夢を見てそれを夢の中の夢だと認識できずあたかも9回同じ夢を見たという錯覚に陥っているだけというパターンも存分にある。これは困った。朝起きて、つい"あの夢を見たのは、これで9回目だった"などと意味ありげなモノローグを冒頭に置いてしまったという無様さときたらない。誰も見ちゃいない聞いてもいない。知っているのは俺だけとはいえ、恥ずかしすぎて生涯思い出す度に奇声を発しながら悶えなければならないだろう。ちくしょうなんてこった。

いや待て。要は、実際に夢を見ていれば問題ないのだ。1回だろうが2回だろうが3回だろうが4回だろうが5回だろうが6回だろうが7回だろうが8回だろうが9回だろうが10回だろうが何回でもいい。とにかく夢を見たという事実さえあれば意味深な言い回しも肯定できる。回数などいかようにも誤魔化しが効くのだ。4年連続好感度ナンバーワンとかどこ調査だよみたいなコピーが垂れ流されている昨今、「いやぁ9回っていうのは分割回数というかぁ、夢ってノンレム睡眠とレム睡眠の合間で途切れんじゃん。つまりその中断と再開を繰り返した数っていう意味でまるまる1本を9回見たわけじゃないんだよね」というような理屈を並べる事だって許されるに違いない。なんだそりゃ半分詐欺じゃないかと憤る方々もいるだろうがこれが世の中ってやつなんだから受け入れていただこう。数の問題はこれで解決。解決だ。解決だとも。さぁそして夢を見たという根拠。夢というのは心理状況が反映され脳が生み出すものだという。生きている中での悩みや不安。主に未来への恐怖、過去の後悔などが抽象化されて抽出されるというわけだ。つまり今の俺が置かれている立場と夢の内容が紐づけられさえすれば信憑性が確かなものとなる。これもある程度はこじつけとハッタリで問題ない。世の中に出回っている情報の中で一字一句正しいものなど一つもないのだから俺の夢だってそれでまかり通るはずだ。では改めて俺という人間を俯瞰してみよう。28歳社会人。趣味は映画とカフェ巡り。彼女なし学もなし知識もなし。安い賃金で働き無為な毎日を送る……


つまんねぇ男だな俺! 何のために生きてんだ!


いかん、趣旨が変わってきた。ともかく、夢と今の生活を結びつけて、俺は本当に夢を見たということを信じてもらおう。さて、夢の内容は……

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