しおりが繋ぐ運命と9回目の夢が告げたこと【KAC20254】

風波野ナオ

9回目、現れた精霊はただ一言だけ伝えた

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


その中で精霊は告げる。


『本心で幸福を望むなら、本気で手を伸ばしなさい』





1回目



夢で迷い込んだ、霧がかる神殿。ここは聖域?

光り輝く精霊が現れ、私にこう告げる。


『今日から9回、私の言う通りにしなさい』


何かの券をくれた。スーパー銭湯? 精霊、意外と世俗的。


『体を清めなさい。ヒゲは毎日剃りなさい』


夢は消えた。


折角なので銭湯は行った。

小綺麗になった。





2,3



『指定時間に美容院へ行きなさい』


店主は私同様不思議な夢を見ていて、丁度よいカットを施してくれた。




『指定時間にセレクトショップへ行きなさい』


販売員がやっぱり不思議な夢を見ていて、丁度廃棄する服を格安で譲ってくれた。


カットして、真新しい服を着た私が鏡に映る。

まるで生まれ変わったみたいだ。






お告げで、私はミニシアターに来ていた。

上映される映画は、原作が好きだった。

5日後に終了予定。


観客は私と、遠い席に女性が一人。同じ原作ファン?

隣の席で一緒に見れれば。


視線に気付き、こちらを向いた。

思わず目を逸らす。





5,6


更に不思議な宣託。


青いしおりを買い、私の名前「晶」を書いた。



次の日、映画の原作を図書館で借り、それを挟んで返した。






指定の本を借りると、赤いしおりが挟まっていた。

『栞』と書いてある。持ち主の名前?






バスに乗り込むと、乗客は私ともう一人。どこか見覚えのある女性。

降車ボタンを押す。次で降りるのだろう。

彼女が本を閉じようとした時、私に衝撃が走った。



手に、青いしおり。



もしかして……私は赤いしおりを取り出し、見せた。




彼女は驚きながら言った。


「あなたも夢を見たのですね」


バスが停車。


「私がその栞です。次お会い出来たら、ゆっくり話しましょう」




「また会えますよね?」





9回目


『──手を伸ばしなさい』


夢と精霊はかき消えた。



何をすれば良いかは告げられなかった。だが、私は行き先がわかった。


今なら間に合う。行こう!

走って、電車に飛び乗る。





ミニシアターの券売所前に『栞』はいた。


「晶さん、来たんですね」

「この映画、今日までって知ってましたから」


そして、迷わず切り出す。


「一緒に見ませんか」


彼女の顔が少し赤らんだ。


「はい、今度は隣の席で」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しおりが繋ぐ運命と9回目の夢が告げたこと【KAC20254】 風波野ナオ @nao-kazahano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ