妖精の推敲

snowdrop

創作の日々、心の日々

 推敲が終わらない。ノートパソコンを前に、今日もキーボードを叩き続ける。

 ひな祭りが終わったとき、「これで推敲も一区切りだ」と思った。しかし、それは新たな推敲の旅路の始まりに過ぎなかった。

 誤字脱字、助詞の重複、セリフやオノマトペなど、一つひとつを見直していく。一段落ついたと思えば、次なる課題が待っている。

 音読だ。

 冒頭から声に出して読んでみると、引っかかる箇所や意味が曖昧な部分が浮き彫りになる。それを修正しながら進む。

 国語の教科書に載っている文章は、なぜ読みやすいのだろうか?

「読まれること」を意識して書かれているからではないか。そう考えると、一つの答えにたどり着く。

 小説は、心地よく朗読できる文章であるべきだ。

 だからこそ声に出して読む。そして引っかかる箇所を直す。それが推敲だ。しかし、作者自身は頭の中に情景が浮かんでいるため、「わかりやすい」と勘違いすることもある。だからこそ時間を置き、自分の世界観から距離を取る必要がある。

 でも、締切は待ってくれない。時間はどんどん過ぎていく。毎日直さないと、完成しないかもしれない。「もうやめちゃおうかな」って思うこともある。でも、今ある問題を直しても、次から次へと新しい直すところが出てくるかもしれない。途中で投げ出すわけにはいかないんだ。

 こんなとき、優しい妖精のホッブゴブリンやブラウニーが出てきて、手伝ってくれたらいいのにな。「推敲をお願いします」って書いた付箋をパソコンに貼って寝たら、夜中に妖精たちが直してくれる。そんな夢みたいな話があったらいいのに。でも、そんなのは現実にはない。もしあったとしても、「作者じゃないと、この場面の主人公の気持ちがわからないから直せません」って言われちゃうかも。

 でもね、今の科学の時代には、妖精の代わりになるものがあるんだ。AIだよ。編集者や校正者、読者の目線で原稿を読んでもらえる。読みやすくなっているか、変な表現はないか、チェックしてくれる。これなら、すぐに推敲が終わるかも。

 文字数に制限はあるけど、役に立つかもしれない。さっそくコピペして、原稿チェックをお願いしてみる。画面を見ると、いろんな視点からの評価と、直し方のアイデアがいくつか出てくる。

 でも、修正案の言葉遣いが硬い。大人向けの小説みたいな表現じゃなくて、児童文学らしい言葉で書いてほしいな。かといって、小さな子ども向けの言葉遣いじゃ困る。高学年や中学生が読むような文章じゃないとダメなんだ。

 言葉は柔らかくなったけど、どうして「思った」「考えた」「感じた」ってすぐ使いたがるんだろう。気持ちを表すなら、動きで見せないと。「と言った」もよく使うし、「?」や「!」も多すぎ。「目が大きく見開いた」なんて紋切り型、よくある表現だよね。

 この場面の主人公は、秘密を隠そうとしながら、平静を装っているんだ。でも、無意識に怖がっている様子が出ちゃうところなんだよ。そんな複雑な気持ちを、ありきたりな言葉じゃ表せないよ。

 さっき言ったのに、どうしてまた同じ間違いをするのだろう。注意したら、今度は言葉の説明をはじめる。まるで小さな子どもの言い訳みたい。そういうのを屁理屈っていうんだよ。そんな話をしてるんじゃなくて、推敲をしてるんだってば。

 キーボードを叩く手を止めて、深いため息をつく。一体何と戦っているのだろう。時間ばかりかかって、推敲が全然進まない。こんなことなら、自分でやったほうが早いかも。そう思って、ログアウトする。

 私は一から、声に出して読みながら推敲を続けるのだった。

   

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖精の推敲 snowdrop @kasumin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ