ミステリーの新しい可能性。モキュメンタリー形式で紐解く不穏な社会の真実

 他にはない、とても新鮮な『読書体験』が得られる作品です。

 本編は、『C』という一人の学生が相談室を訪れるところから始まります。同じ大学に通う『B君』が姿を見せなくなって心配しているという。
  
 ここから先で少しずつ、『不審なワード』が散りばめられて行くことになります。
 『DEI送り』という謎の単語。『卒業までに彼女を作らないと、そこに送られる』という噂もあるとか。

 これは一体なんだろう? 自分が知らないだけで、現代の学生の間では常識になってる単語とか、なんだろうか?
 そんな風に疑問を感じながら読み進めていくと、『トラフでご両親亡くされてて』という話も。
 
 この段階で気づきます。なるほど、この作品は「もしもの未来」を描いた作品に違いない、と。

 これがわかったところで、一気に物語に引き込まれて行きました。ここで描かれている『社会』はどのようなものなのか。『修正プログラム』とか『マッチングカリキュラム』とか、どことなくディストピア的な雰囲気も感じ取れるようになります。

 そんな社会の中で起こった『B君』の失踪。何か、とんでもない闇に通じているような予感がする。

 Cによる相談と、時折差し挟まれて行く『謎の資料』の数々。『こども家庭省』とか『ダイバーシティランキング』、『70歳以上の認知機能検査』など。
 なんらかの目的に合わせ、国家単位で『何か』が進められている。その先でなんらかの残酷な措置もなされているのではないか。

 好奇心、怖い物見たさ。そういった感情を刺激され、気づけば最終ページまで一気に読み進めさせられていました。
 モキュメンタリーという形で『ミステリー』をやるという試みが、なんといっても絶賛したくなります。

 「この物語の世界観はどんなものなんだろう」と、読者が想像を膨らませていく。自分の知っている常識や知識が通用しない、「何か不穏な理屈」で構築された世界。それらを手探りで読みこんで行き、最後に恐ろしい真実を垣間見させられる感覚。

 これぞ読書の愉しみだな、と嬉しくなりました。ミステリーの新しい可能性を感じられる、とても素晴らしい作品です。

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