そして彼女は動き出す

 さまざまな作品に登場する悪役。

 読者に主人公への肩入れをしてもらいたいからか、彼ら(彼女ら)の悪行はエスカレート気味。
 加えてその行動原理には、ハテナがつく物も多い。

 だからたまに我に返って、こう思う。

 ――――こんなヤツ、本当にいる?

 本作の素晴らしい点は、ここがスタート地点だということ。
 
 テンプレは嫌い、流行りなんか知るか……では終わらない。
 悪役たちの生まれた背景。
 つまり創作者や読者に根差した感情を客観視しながら、しだいに「私」は自身の内面を掘り下げていく。

 いわば考察と共感。
 その過程で「私」は悪役と向き合い、彼女と二人三脚で歩き出す。

 創作論であり、ヒューマンドラマである稀有な作品。

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